需給ひっ迫続く危険物倉庫 地域・機能で進む多様化、連携も深化へ
Daily Cargo 2019年10月28日掲載
危険物倉庫の全国的な庫腹逼迫を受け、近年各地で倉庫の新設や拡張が進んでいる。主要港周辺での新設余地が限られ、また陸送や路線便の確保も困難になってきたことから、最近では地方でも新たな新設の動きが加速してきた。ただ、ほとんどの倉庫は開業直後から短期間で満床となり、ひっ迫感は依然衰える気配を見せていない。内陸側では、ドラム缶やIBC容器といった伝統的な荷姿だけでなく、多品種小ロット化に対応しようという動きが強まってきたことも特徴だ。また新倉庫や足回りの確保ではどの事業者も課題を抱えていることから、事業者同士の連携や庫腹の融通、さらに将来の安定した国内ネットワーク構築を睨んだ取り組みなども加速している。
危険物倉庫は、歴史的に臨海工業地域の近くにおける工場倉庫としての性格が強かったため、従来は京浜、中京、阪神および北九州といった主要港の周辺に集中していた。しかし近年は、特に京浜港で顕著な港湾混雑に加え、ドレージ確保の難しさ、最寄港を活用したより安定した保管・輸出入を望む荷主の声などを受け、主要港以外の地域で新設が進んでいる。八代港で2棟を運営する松木運輸のほか、新潟港や仙台港ではそれぞれ初の本格的な危険物倉庫を開業させたリンコーや大郷運輸/東邦運輸倉庫、姫路で2018年に初の危険物倉庫を開業した兵機海運などが主な事例だ。各港の事業者が、サービス差別化に向けた新規事業の一環として取り組んでいるケースが多い。
一方で主要港周辺では、需給が逼迫しているものの倉庫新設の余地は限られている。京浜地区では、今年前半に丸一海運の自動立体倉庫が竣工したが、全体としては新たな供給余力は限られているようだ。年末には上野トランステック傘下の上野ロジケムが横浜市鶴見区で新たに危険物倉庫を開業させる予定。一気に6棟という大規模な新規倉庫の開業となるが、「もともと関係の深い石油化学系の荷主の貨物を引き受けると見られ、マーケットでの庫腹の需給緩和には繋がらないだろう」と話す業界関係者は多い。また今年9月には、台風15号の影響で横浜市金沢地区を中心に一部危険物倉庫に被害が生じたことで、さらに需給のタイト感が強まっている。
新設される倉庫では、従来のようなドラム缶や一斗缶、IBCなどへの対応だけでなく、定温機能や毒劇物保管への対応など機能が多様化。さらに内陸部では、より少量多品種、高付加価値の危険物の取り扱いを念頭に置いた自動立体倉庫などの建設を計画・推進する事業者も少なくない。荷主企業のコンプライアンス意識の高まりやEコマース需要の拡大、これまで荷主が工場内で抱えていた保管機能のアウトソース化などを背景に、危険物倉庫の機能や姿も変化しつつある。
消防法上の制約などから危険物倉庫のキャパシティを大きく増やす余地が限られているため、事業者間の連携も進む。築港や日陸など危険物物流の大手事業者は、引き合いが多く寄せられる一方でそれぞれ単独では対応余力が限られる。このため、各港・地域で地場の事業者と連携し、倉庫の建設や運営は現地の事業者が、営業に関しては大手が担うといった形で相互に協力し合う事例は増えてきている。あるいは事業者間で、それぞれの必要に応じて庫腹の相互融通を図る形で柔軟に保管需要に対応する動きも見られる。
また各事業者にとって足回りの確保も喫緊の課題だ。特に長距離チャーター輸送や路線便では危険物の輸送が敬遠される傾向が強く、多くの事業者が安定した陸送体制の維持・確保に苦心している。将来的にこうした状況がさらに加速する可能性を踏まえ、ターミナル機能を備えた配送センターの整備などを今後の展開として描く事業者もあり、危険物倉庫事業は今後さらに多様化が進みそうだ。
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