労務管理ヴィッセンシャフト

育児・介護休業法の改正について

2025年3月12日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.32
野崎 律博


いよいよ春も近づいております。梅の花もほころび、月末ころには桜も満開になるかと思われます。新年度はどんな年になるでしょうか?

さて今月は、本年4月に施行される改正育児・介護休業法についてふれたいと思います。厳密には4月と10月の施行がございます。今回は4月改正について、お話してゆきたいと思います。

◆子の看護休暇・介護休暇の見直し
4月より育児介護休業法の中で従来から規定されていた子の看護休暇について、取得事由が子の看護だけでなく、広い活用ができることになります。具体的には(1)感染症に伴う学級閉鎖等(2)子の入学式(あるいは入園式)、卒業式への参加などです。また子の看護休暇について、従来は継続雇用期間6か月未満の従業員は、労使協定により適用除外できましたが、改正後は取得が義務化されます。ただし1週間の所定労働時間が2日未満の従業員については、従来と同様に労使協定による除外が可能です。これら改正については、介護休暇も同様の改正が行われます。細かい話ですが、名称も「子の看護(等)休暇」へと変更されます(従来名称は「子の看護休暇」)

◆所定外労働の制限の対象拡大について
従来は「3歳に満たない子」を養育する従業員について、請求があったとき所定外労働を行わせることができませんでしたが、4月からは対象範囲が「小学校就学の初期に達するまでの子」へと拡大されます。

ところで皆様は、「所定外労働」と「時間外労働」の違いについて、ご存じでしょうか?(労基法に詳しい方はご存じと思われます)。なぜこんなお話をするかと申しますと、これらをごっちゃにされている方が多いと感じるからです。お話の中でごっちゃになることはよくありますが、就業規則などの記述について誤りや誤解が生じているケースが多いので、あえてお話いたします。

「所定外労働」というのは、就業規則で定める会社で決めた1日の労働時間を超える労働のことです。就業規則で定めるということは、すなわち労働契約の中身を指しているものでもあります。

対して「時間外労働」というのは、労基法で定める法定労働時間を超える労働のことを指します。法定労働時間というのは、労基法で定める労働時間の上限のことです。労基法では1日8時間、1週間40時間を法定労働時間の上限と定めています。これらを超える時間外労働の必要性がある場合、労使間協定(36協定)により延長できる時間を協議の上、書面化する必要があるのは、ご存じの通りです。

話を戻しますが、例えば仮に会社の所定労働時間が7.5時間である場合、要件に該当する子を養育する親が所定外労働の制限を会社に求めた場合、法定労働時間(8時間)以内であっても業務を行わせることができなくなります。

◆育児のためのテレワーク導入の義務化(努力義務)
育児・介護休業法では、従来から子を養育する従業員に対して、育児目的休暇や時差勤務、フレックスタイムの導入等を努力義務として課しておりました。今回の改正により、3歳に達するまでの子を養育する従業員に対し、テレワークの措置が努力義務として追加されました。

あくまで努力義務なので、必要かつ可能な範囲での対応となりますが、多様な働き方をご検討されているのであれば、これを機会に就業環境可能な整備をするとよいかもしれません。テレワークについては、コロナ禍において世の普及が進んだと思いますが、業務の性質上可能な仕事であれば、制度として導入することで従業員のエンゲージメントや定着率向上も望めます。 また育児短時間勤務が困難な業務に従事する従業員に対し、労使協定により対象外とすることが可能ですが、要件として代替措置(フレックスタイム制や時差出勤制度等)の実施が必要でした。今回の改正ではこれらにテレワーク勤務が追加されます。

◆公表義務の対象拡大について
従来も従業員数1千人を超える会社に対し、男性従業員の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられていました。今回の改正では、公表義務が生じる会社の規模要件が1千人超から3百人超に引き下げられます。(適用範囲が拡大されます)。

◆介護休業について
介護休暇については、育児休暇と同様、6箇月未満の従業員への適用除外が出来なくなったことは同様の取扱いとなります。また、従業員が家族の介護をする必要が生じ会社に申し出た際、介護と仕事の両立支援制度について個別の周知・意向確認をすることが会社に義務化されました。周知すべき内容としては、介護休業制度や介護休暇、時間外・所定外労働の制限に対する説明などです。これらは既に育児休業で行われてきたことと同様ですが、介護に関しても義務化されることになります。

会社として新たに義務化されたこととして、仕事と介護の両立支援制度を利用しやすくするための環境整備についてです。「両立支援の環境整備って?」と思われるかもしれませんが、具体的に申しますと、制度周知のための研修会の実施や相談窓口の設置、利用促進に関する方針の周知などが挙げられます。

その他育児と同様に、要介護状態の対象家族を介護する従業員がテレワークを選択できるよう、会社側の努力義務として追加される等の改正が行われます。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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