傭車ドライバーの労働法適用の有無について
2025年2月12日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.31
野崎 律博
◆業務委託と労働法との関係について
年明けから早くも1箇月経過しました。筆者は50歳代ですが、この年になると月日の経過も早く感じられ、あっというまの2月という感じです。2024年問題も法改正施行後約1年近くを迎えようとしていますが、運賃や労働時間の経営課題も道半ばといったところでしょうか。労働時間の上限規制も施行されたことで、ドライバーの労働時間も削減され過重労働事案も少なくなるかと思いきや、年末年始に運送トラックの人身事故のニュースもしばしば見受けられ、過重労働抑止効果としての働き方改革に疑問も残る今日この頃です。
労働時間の問題もありますが、運送事業者様にとって頭を悩ませている問題はドライバー確保の困難さです。日々増加する運送需要ですが、人材確保に苦慮する中、自社トラックで捌ききれない業務を遂行するために、外部委託されるケースもあるかと存じます。このように外部に輸配送業務を依頼することを傭車といわれておりますが、これらと労働法との関係はどのようになっているのでしょうか。
ちなみに傭車という言葉は、「傭兵」と「車」が組み合わさって作られた造語であるといわれております。明確に定義されている言葉ではないのですが、主にトラック運送業界における日用語となっております。
傭車は、自社が請け負った輸配送業務を他の運送会社や個人事業主のドライバーに委託することをいいます。とりわけ相手が個人事業主の場合、自社の従業員(ドライバー)と委託先の個人事業主と労務管理上の見分けが不明確になり、労基法等の取扱いについてどのようになるか?という疑問が生じます。
一般的な感覚で申し上げますと、雇用契約と業務委託は契約の種類も異なり、労働法の適用は無いものと考えられます。
◆裁判判例からみる、傭車ドライバーへの労働法適用可能性について
それでは運送会社の傭車ドライバーに対する、労基法などで定める使用者責任について、一切の考慮をする必要はないのでしょうか?昨今の判例では傭車運転者に対し最高裁は、事業者性を広く認め、労基法などの使用者責任について消極的見解を取っている傾向にあるのですが、実は過去の裁判判例で使用者責任が認められたケースもあります。
もし仮に傭車ドライバーに労使関係と同様の使用者責任が認められた場合、どのようになるかと申しますと、労基法や労災法等で定められている労働時間や賃金、安全衛生確保措置や労災があったときの災害補償などについて、自社従業員と同様に取り扱わなくてはいけない・・・という話になります。
「そんなバカな?傭車は雇用契約ではなく業務委託なのに、従業員と同じような使用者責任が発生するなんて!」と思われるかもしれません。もちろん全てのケースではなく、冒頭に述べました通り、使用者責任について消極的見解の傾向が強いのですが、ゼロではない点にご留意いただきたいと存じます。
それではどういう場合にそれら責任が生じるのでしょうか?裁判判例をご紹介いたします。この事案では、個人事業主が自己所有するトラックを、運送会社の指示に従って製品の輸送に従事していた運転手(傭車運転手)が、業務遂行中に労災事故を起こしました。運送会社と傭車運転手は雇用契約関係にないのですが、この運転手は労働者災害報償法上の労働者に相当するものとして労災保険を請求し、使用者責任の有無について係争となった事案です。
傭車ドライバーは、運送会社との契約が請負契約であり、契約上においても雇用関係ではありません。従いまして就業規則や賃金、退職に関する規定適用もなく、報酬も出来高払いとされており、本件事故についても自ら従業員ではないと認識しておりました。そのような中で、なぜ使用者責任が認められる判決が下されたのでしょうか?結論から申しますと、当該ドライバーが実際に行っていた業務実態において、その運送会社は傭車を営業運営の中に組み入れ、それらを前提とした運送力を確保しようとしていたとみなされた点にあります。
下記がそのポイントとなります。
(ポイント整理)
●契約上は労務管理に相当する諸規定(労働日、休日、始業終業時刻など)を明示的に定めてはおらず、その点においては雇用契約とはいえなかった。
●勤務実態として、毎日の始業と就業の時刻が、運送先に納品すべき時刻、運送先までの距離、翌日の運送の指示が行われる時刻、その後に行われる荷積みに要する時間等により「自ずと決まる」状況にあり、それらについて傭車ドライバーの裁量の余地は無かった。
●自己都合で休む場合には事前にその旨を届出するよう指示されており、時間的な拘束の程度は、同社で従事する一般のドライバーとさほど異ならない。
●納品時刻について、運送先や貨物の数量、走行距離など業務内容も運送会社の指示によって一方的に決まり、傭車ドライバーがこれを選択する余地が無かった。
●個人事業主なので、従業員等を雇ってはおらず、実質的に一人で当該運送会社の業務を専属的に行う以外なく、他社と運送契約を締結する、あるいは第三者に運送業務を代替させることは(実態として)不可能であった。
●報酬面についても、当該運送会社が一方的に設定した運賃表に拘束され、傭車ドライバーの意向を反映させることが事実上できなかった。
●報酬は運送会社の従業員に適用される賃金より割高であったとはいえ、トラック協会の定める運賃より1割5分も低く、かつ従業員との雇用契約上適用される経済的利益(福利厚生など)を総合的に考慮すると高額といえず、従業員賃金相当とみられること。
以上の様々な要素が考慮され、当該運送会社の傭車ドライバーに対する業務遂行に関連する指示や時間的拘束が、請負契約に基づく発注者の請負人に対する指図や契約の性質から生じる拘束の範疇を超えるものとみなされ、実態として使用従属関係における労務提供とみなされることになり、労災保険請求が認められた判例となります。
◆まとめについて
いろいろと小難しいお話になってしまいました。端的に申しますと、契約上は業務委託であるとはいえ、実態としては自社従業員に対する労務管理実態相当であり、賃金も総合的に勘案すると従業員と同程度であったこと、個人事業主の裁量権も少ない点などが重視され、雇用契約関係にある労働者と同程度であるとみなされた・・・ということになります。
冒頭にも述べました通り、近年の判例においては同ケースにおける使用者責任について、消極的見解の傾向にあるのですが、過去の裁判判例を紐解いて行きますと、必ずしもそうでない事例もございますので、十分な考慮が必要となる場合もございます。