私生活の飲酒運転が懲戒解雇に?会社側の処分は適切か?
2024年11月13日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.28
野崎 律博
◆日常の飲酒にも要注意!懲戒解雇の話について
11月に入っていっきに寒い日が続くようになりました。つい先月までは季節外れの夏日があるなど、地球温暖化の深刻化が身に染みる今日この頃です。悲しいかな?年をとると月日の経つのも早く感じるようになり、この勢いでいけばあっという間に年末年始と新年の到来です。
さて年末年始といえば、忘年会など飲み会の多くなるシーズンですが、ドライバーと飲酒の問題は切っても切り離すことができません。運行前点検でアルコールの反応が出たことで、その日の運行を断念せざるを得ないドライバーさんもいらっしゃるかと存じます。ことに自動車運転に従事されるドライバーさんにおかれましては、適切な飲酒とのお付き合いは気を付けなくてはなりません。
業務時間中の飲酒は論外であることは、もはやいうまでもありませんが、業務終了後の飲酒により業務に支障をきたす・・・などという事案も多いかと思います。
過去の労働裁判を遡りますと、こんな事件がありました。某貨物自動車運送事業に勤務するAさんは、勤務終了後に帰宅途中に飲みに行き、最寄り駅から自宅に向けて自家用車を運転中に酒気帯び運転で検挙されたという事案です。これだけのお話ならば、よくある話(あまり好ましい話ではありませんが・・・)なのですが、この従業員さん、その旨を会社に報告しませんでした。その後Aさんは、かかる酒気帯び運転によって、運転免許停止の行政処分を受けることになります。後になってそのことが勤務先の会社に発覚しました。会社が従業員さんの運転記録証明書を取得した際、この飲酒運転と行政処分を受けていたことが発覚したのです。
会社はAさんの不適切な飲酒運転があったことと、報告が無かったことを問題視し、懲戒解雇を申し伝えました。従業員は会社側を相手に懲戒解雇無効の訴訟を起こしますが、結論から申しますと、この懲戒解雇は有効の判決が下されました。
◆普通解雇と懲戒解雇
ここで基本事項をひとつ解説します。懲戒解雇というのは、解雇の一形態です。労働者側の問題で生じる解雇には大きく分けて二つあります。一つは普通解雇で、もう一つは懲戒解雇です。(整理解雇や諭旨解雇というのもありますが、これはまた別の機会で解説します)
「解雇なんて物騒な話題を!」と思われるかもしれませんが、長く会社の経営に携わる方々にとっては、いずれは避けて通れない事案といえます。ちなみに解雇というのは、従業員に対し会社側が一方的に労働契約の解約を申し出ることをいいます。俗にいう「クビ」ですね。
話を戻しますが、普通解雇と懲戒解雇は、同じ解雇でもその取扱いの重さに、大きな違いがあります。普通解雇は一般的には、従業員の能力不足などを理由に労働契約を解除することです。対して懲戒解雇は、従業員が服務規律違反などの企業秩序違反を行った際、最も重い懲戒処分として行われる解雇です。会社側からの労働契約解除である点は同じですが、民事上の処分としては扱いに圧倒的な違いが生じます。
普通解雇はよく労働裁判で取り扱われる事案の一つです。よく取り扱われると同時に、労働者側の主張が認められる(解雇無効)ケースが多い事案でもあります。普通解雇の最も多い理由として挙げられるのは、従業員側の能力不足や勤務態度の不良等によることが多いです。日本の雇用慣行は終身雇用などにみられる長期雇用を前提とした雇用が基本と考えられるため、従業員側に多少の能力不足があったとしても、会社がきちんと教育を行うことが求められます。従って、十分な教育も行っていなかったにも関わらず能力不足による解雇は、会社側の解雇回避努力の不作為とみなされ、経営側に不利な判決が下されるケースが多いです。その場合、解雇が無効となる訳ですが、実際は復職するのではなく、金銭解決するケースが多いです。
一方懲戒解雇は、就業規則などで禁じられている重大な服務規律違反や違法行為(会社のお金の着服や犯罪行為等)への制裁として行われます。普通解雇はグレーゾーンが多いですが、懲戒は「真っ黒な事案」が理由のため、解雇の有効性を争う労働裁判になったとき、会社側の主張が認められるケースが多いです。従って懲戒解雇を巡る労務裁判の争点となるのは、解雇そのものというより、懲戒事由が解雇するに値する程の重さをもっているか?または懲戒解雇に至る手続きに瑕疵はなかったか?などが主な論点となります。
◆プライベートの飲酒運転は、懲戒解雇の事由に値するか?
冒頭の飲酒運転の事案ですが、プライベートの飲酒運転は業務中に行われたものではないため、あくまで「私生活上の非行」に該当します。私生活上の非行というのは、当該ドライバー職の従業員が会社を離れて私生活において行った非行行為です。今回のケースは飲酒でしたが、その他の刑事事件に該当するような犯罪行為も同様です。
「私生活とはいえ、犯罪行為に相当することをやったのだから、懲戒処分されて当然でしょ?」と思われるかもしれませんが、飲酒というのは誰でも行いうる行為であり、そのものが犯罪ではないため、判断は少々やっかいです。(飲酒運転は大問題ですが)
冒頭にも述べましたとおり、本件懲戒解雇の有効性を巡る裁判は、会社側の主張が認められることとなりました。(懲戒解雇は有効とみなされました)。ただし飲酒運転だからという理由だけで認められた訳ではありません。要点としては①運送会社は、交通事故の防止に努力し、事故に繋がりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対し、厳正に対処すべき立場にあること②このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちに会社の社会的評価の低下に結びつくこと、ひいては企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあること③会社側からすれば、ドライバーの飲酒・酒気帯び及び運転に対して懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むことは、社会で率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定できる・・・という点です。
このように懲戒解雇の有効性を争う裁判は、単に懲戒処分が適切な手続きをもって行われたかどうかだけでなく、従業員の非行が懲戒解雇という最も重たい処分としてつり合いが取れているか?社会通念的に相当といえるか?等が争点となります。