物流よろず相談所

部下育成に1on1の活用を

2024年11月6日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志

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部下育成について

2024年問題に直面した物流業界において、働き方改革への対応が求められる一方で、政府の物流対策もこれまでに少しずつ進んで参りました。4月26日に国会で可決・成立した改正物流2法も、物流関係者にとっては大きな関心事となりました。物流の課題は、これまで物流現場や委託先にその解決を丸投げしている状況でしたので、事業者間の利害調整や多重的な請負構造の是正がなかなか進まなかったというのが実態です。改正物流2法の成立により、一定規模以上の特定事業者には中長期計画や定期報告、物流統括管理者の設置などが義務化され、法的な裏付けによる環境整備がなされたという点で意義は大きいとされています。ただ、トラックドライバーの時間外労働規制にしろ、改正物流2法にしろ、これらはあくまでも改善に向うスタートにすぎません。物流業界にとっての2024年問題は、それをむしろ大きなビジネスチャンスと捉えて、さらなる成長を狙う企業が多いことも事実です。企業の成長は、今抱えている課題の解決と、貴重な人材の確保・育成が支えます。

前号において部下育成について説明させていただきました。今回もその続きを説明させていただきたいと思います。物流業界においてはこの4月より、勤務時間や残業時間の規制が強まり、ドライバーなど一人に求められる 仕事は質・量共に、より“高品質”が求められるようになっています。そのような中、企業では今、限られた人数の中でいかにして優秀な人材を育て上げていくか、模索が続いています。これまで物流業では部下の指導というと現場での実務を通してノウハウを身に付けるOJTが主流でした。ただそれだとOJT指導者の負担が大きいことや、教える側のスキルによって教育の質や進度に差が出やすいため、効率的に人を育てるという意味で、OJTのみでは今の物流現場に向かない部分もありそうです。

そこで今回は、成長企業の多くが取り入れているとされる、1on1というマネジメント法も少し見てみることにしましょう。1on1とは御存知の通り、上司と部下が定期的に1体1で行なうミーティングのこと。面談との違いは、面談は上司が部下に何かを伝えたり、目標や進捗の確認をすることが主流なのに対し、1on1は互いが対話して日々の悩みを解決したり信頼関係を構築していく目的を持つもの。2024年問題でドライバーが急に辞めていったり、仕事に不満も持ったりしていることも考えられる中、早い段階で問題を発見し解決に導くきっかけにもなり得るのが1on1です。「自社におけるあなたの将来が充実したものになるよう共に考えたい」という意図がコミュニケーションの底辺にあることが重要でしょう。OJTは仕事を通して業務内容を教えた後は自分で成長してもらう、というスタンスをとりますが、1on1は目的達成のみならず、より成長していくための改善や振り返りの習慣も身に付けてもらえるようになるものです。ただ現場でお話を伺うと「具体的に何を聞いたらいいのか分からない」「とりあえずやっているけど、部下の変化を感じない」といった課題も多いのが実情です。気づけば沈黙が続き、「互いに苦痛の時間になっている」ということも。部下の成長支援を目的としている1on1ですが、なぜ上手くいかないのでしょうか。 1on1は、部下のための時間であり成長支援の場なので、 部下が「話したいことを話せる」「振り返りの機会」であることが非常に重要です。

現在、荷主企業などでは導入されている企業も多いようですが、事業者側にはまだ上手く部下育成に取り入れられていないようです。効果を実感できる1on1にしていくためにはどのような壁を乗り越えなければならないのか考えてみましょう。ひとつ目の要因としては先にも述べた通り管理者の負担が大きいこと。その割には1on1が業務の進捗確認で終わってしまったり、本音がなかなか引き出せていないようだと感じる管理者も少なくありません。またハラスメント対策の観点からプライベートについてどこまで踏み込んでいいのか分からないとする意見も少なくないようです。最も大きな要因は1on1のスキルが何なのか良く理解できないとする管理者が多いこと。

一般的な1on1の導入は、上司だけが研修を受け、上司から部下に向ってコミュニケーションを実践していくことから始まります。しかし、上司だけが1on1の「目的」「意義」「やり方」「進め方」を分かっていても、部下はただの面談と思って聞くだけに徹してしまうというケースも多いのです。1on1に必要なことは「上司」だけでなく「部下」にもインストールしていく方がやりやすいはずですね。「上司と部下がペアで達成する1on1」という新しいコミュニケーションのスタイルだと考えましょう。指導者とドライバーやスタッフが1on1の時間という自覚を互いにした上でコミュニケーションを始めれば、部下も「自分も言いたいことを言っていいんだ」と思えるかもしれません。次の1on1までに要求や悩みを保留しておけるよう、次回の予定も入れておければ尚良いでしょう。指導以外にも本業をしっかり持っている幹部のみに、これ以上負荷をかけるのではなく、部下側も意義ある時間にしようという気持ちを持ってもらうことが大事です。うまくいかない責任を指導者だけに押し付けず、双方で責任をシェアしてより良い仕事を続けていけるよう話し合っていこうとする姿勢が必要なのです。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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