物流よろず相談所

部下育成について

2024年10月30日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志


多くの企業が部下育成に悩んでいるとされる中で、解決策として導入されたのが、1on1です。様々な企業で導入されている1on1ですが、「具体的に何を聞いたらいいのか分からない」「とりあえずやっているけど、部下の変化を感じない」といった課題も多いのが実情です。気づけば沈黙が続き、互いに苦痛の時間になっている…なんてこともあるのではないでしょうか。部下の成長支援を目的としている1on1ですが、なぜ上手くいかないのでしょうか。 

1on1の一般的な定義とは、「定期的に行う上司と部下の面談」で、1on1は、部下のための時間であり成長支援の場なので、 部下が「話したいことを話せる」「振り返りの機会」であることが非常に重要です。現在、物流業ではまだ多くはないようですが、荷主企業などでは導入されている企業も多いのが事実です。では何故上手く部下育成に結びついていないのでしょうか。長年にわたり人材開発・組織開発を研究する立教大学経営学部の中原淳教授は、1on1が活性化しない原因として、「上司に課題がある」とされている現状に問題があると指摘しています。その背景と、効果を実感できる1on1にしていくために超えるべき「3つの壁」について分析しています。

まずは管理者が行なうべき人数が多く、負担が大きいのが要因として考えられます。実施されても、業務の進捗確認になってしまったり、本音が引き出せていないと感じるとする管理者も少なくありません。またハラスメント対策からプライベートについてどこまで踏み込んでいいのか分からないとする意見も少なくないようです。最も大きな要因は1on1スキルを実践する難しさも感じているというのが大きいとされています。管理者の中には人事がやってくださいと言うから仕方なく1on1をやっているような「やらされ1on1」も決して少なくありません。その他にも、上司が「君はどう思う」「君はどうしたいの」と問い続け、部下が疲弊してしまうケースも。ついには何も話してくれなくなってしまうケースが頻発しているようです。「傾聴」すべく、とにかく黙って話を聴いているけど、部下の変化を感じない…といった1on1もあるようです。1on1がうまくいかないのは、上司がやり方を分かっていない、部下の行動変容につながるような背中のひと押しが足りないなど、「上司側」に課題があると言われがちです。管理業務の忙しさだけでなく、プレイヤーとして売上と利益を上げなくてはいけないプレッシャーに加え、人事施策でももっと活躍しろと言われる現場の上司への負担はとても大きいものです。しかし、私が現場でうまくいかない1on1の事例を数多く見て気づいたのは、 上司側だけではなく「部下」側にも課題があるということです。対話が進まないのは上司だけの問題ではないのです。

一般的な1on1の導入は、上司だけが導入研修を受けて、上司からメンバーに学んだことを伝えていくやり方です。しかし、上司から部下へ1on1の「目的」「意義」「やり方」「進め方」を伝えていくことは難しいですし、負担も大きいと思われます。そこで1on1に必要なことを「上司」だけでなく「部下」にもインストールしていくやり方を考えてみましょう。「上司と部下がペアで達成する1on1」という新しいコミュニケーションのスタイルを作り出したいものです。そのときに、関係者全員が「どのようにやればいいのか」「どのようなコミュニケーションを取ればいいのか」という「台本」をきっちり持っていないと難しいことになってしまいます。上司だけにこれ以上負荷をかけるのではなく、部下にもしっかり学んでもらうことが大事です。うまくいかない責任を上司だけに押し付けず、双方で責任をシェアしてよりよくできるように取り組むことが大事です。まずは、この意識を双方に持ってもらうことが重要で、上司はマネジメントという役割上、「何か話さなければ」とか「何かしてあげなければ」と思いがちですが、 マネジメントからサポートへ、意識を変えることも必要ではないでしょうか。よい1on1を受けたことがなく、やり方のイメージを持てない方も全体の流れやステップごとの問いかけを頭にいれておけば、心にゆとりを持って望めるのではないでしょうか。そして 1on1に必要な知識を「上司」「部下」双方にインストールしていくモデルを、組織としてぜひ推進していただければ と思います。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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