物流よろず相談所

社員の育成と定着

2024年9月4日

物流よろず相談所 

 

4月以降、ドライバーに対する時間外労働に上限が設けられ、事業者には対応の義務が課せられるようになりました。業務を遂行するために必要な人員不足をこれまで社員の残業でカバーしてきた物流事業者も少なくありません。日々の業務に対応しながら、苦しい取組みは今も続いています。ドライバーの残業時間減少により、人員を増やすのが理想ですが簡単ではありません。事業者の中には長距離ルートを徐々に止めて、地場シフトを少しずつ進めているところもあります。今後、幹線輸送はトラックに頼っている荷主が多い中で、物が運べない事態が起こることも考えられます。しかし中小事業者の現況の対策はドライバーの労働時間が超過しそうになると、管理者がハンドルを握ったり、最悪は社長自ら(時には家族も)ハンドルを握るというケースも珍しくありません。しかしこれだと何とか生き残ったとしても、決して成長できる企業とはなれないこともわかっています。改正改善基準告示によって1人当たりの休みを増やして残業時間を削減するため、新たなドライバーを採用せざるを得ない、とする事業者も多いのですが、中には「稼ぎたい」タイプの方はお断りし、「多少給料少なくとも休みが多い方がいい」タイプの方を始めから選ぶ、ところもあります。勤務体制を多様化し、「週1日」や「1日数時間」など運送業において考えられ得る様々なフレックス勤務も検討し始めた企業も出ています(ただし、これには十分なスキルを持った経験者であったり、ルールをしっかり定めておくなど一定の条件は必要)。

ドライバー確保の基本は待遇面の改善が不可欠であり、特に賃金水準を上げることが重要です。現状では年末で勤務時間等が上限に達した場合、辞めようとするドライバーはさらに増えるかもしれません。彼らの給与を上げる原資は “運賃UP” しかないことを経営者・幹部はまず頭に刻み込んでおく必要があります。もちろん値上げだけが交渉の全てではありません。荷待ちや付帯作業の削減や運行の組み替えなどに対し、荷主の協力を得られるだけでもコスト効果は大きいと言えます。

そのような中で、どうやって社員を定着させるかが人員不足解決カギとなってくるでしょう。「学歴別就職後3年以内の離職率」によると高卒が36.9%、大卒が31.2%、運送業においては高卒が32.8%、大卒は25%(厚労省による)となっています。運送業の離職率は他業種に比べて特に高い訳ではありませんが、ただ、高卒で3人に1人、大卒で4人に1人が入社後3年以内という短期間で辞めていくというのは企業にとって放置できない問題です。コストと時間をかけて採用した貴重な人材を1人でも多く長く自社に定着させるため、工夫と努力が必要です。 

全日本トラック協会の「日本のトラック運送業の現状と課題(2023年)」によると、40歳以下のドライバーは全体の23.9%、40歳~50歳は27.4%、50歳以上は48.8%、高齢化も年々着実に進んでいます(女性の就業率は20.4%、ドライバー職になると3.5%)。これらの現実から見ても、運送業の慢性的な人手不足は離職率のせいだけではなく、若手層と女性の新規就業者の少なさや現役ドライバーの高齢化等といったいくつもの要因からきたものと言えます。社員にとって働き易い職場となっているかどうかが重要です。信頼できる上司がいる、仕事にやりがいがある、心を分かち合える仲間がいる、会社の価値が高いなど多くの要素があると思いますが、単純に言うならば仕事が好き、会社が好き、社長が好きと言える社員満足度の高い会社がどうかということではないでしょうか。優秀な人材確保のためにも、ドライバーという職種の魅力や待遇改善に取り組む企業の姿などを積極的にアピール、また現社員の意識改革などにも努め業界全体でイメージアップを図る必要あるでしょう。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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