物流よろず相談所

2030年 物流問題

2024年7月31日

物流よろず相談所 


2024年問題が取り沙汰されていた物流業界ですが、2030年問題が物流業界に及ぼす影響はもっと深刻です。高齢化と人口減少による構造的な人手不足、2024年問題からの継続的なドライバー不足、脱炭素化への投資負担などの課題が重なり合い、業界は多方面からの圧力に直面します。

2030年問題とは、2030年に日本が直面する複合的な社会問題のことです。人口減少、少子化、高齢化という長年の構造的課題が同時に顕在化し、雇用、医療、社会保障などの分野に大きな混乱をもたらすと予測されています。労働力不足、医療需要の急増、社会保障制度の圧迫など、従来のシステムでは対応しきれない事態が生じ、働き方の再定義や制度の刷新など、社会全体の見直しが求められます。2030年問題への対応は、日本の持続可能性を左右する重大な課題となります。物流業界においては、2030年問題で日本全体が直面する労働力不足の課題が、業界特有の要因によってさらに加速・深刻化することが懸念されています。日本は高齢化が急速に進んでおり、内閣府の発表によると2022年時点で65歳以上が29%を占め、4人に1人以上が高齢者となります。このペースが続くと、2030年には3人に1人が高齢者になると予測されており、同時に出生率低下による生産年齢人口の減少が顕著になります。この人口構造の変化は、あらゆる産業で労働力不足を引き起こしますが、特に物流業界への影響は甚大です。現在物流業界では、物流業界の2024年問題などと言われるように、物流・運送業界が直面する差し迫った課題があります。

2024年4月から働き方改革法案が本格適用され、トラックドライバーの年間時間外労働が960時間に制限され、この規制は、ドライバーの健康と生活の質を守る一方で、労働時間の制限により、一人のドライバーが走れる距離が短くなるため特に長距離輸送に支障をきたす可能性が高くなります。2024年でもトラックドライバー不足が深刻化しつつありますが、この状況が改善されないまま2030年を迎えると、2030年問題の影響により高齢ドライバーの退職と生産年齢人口の減少が重なるため、人手不足がさらに加速することになってしまいます。加えて世界的課題とされているカーボンニュートラルに向けた世界的な風潮が、物流業界にさらなる圧力をかけていくことになります。2030年に向けて脱炭素要請が一段と強まる中、物流業界は車両のEV化やエコドライブの徹底など、大規模な設備投資と運用変更を迫られています。このような業界全体の変革は、短期的には業界の負担を増大させ、中小企業を中心に経営を圧迫することになりかねません。

国土交通省の調査「2024年問題について」によると、ドライバー不足と2024年問題の労働時間規制により2030年には運送能力の34.1%が不足する可能性があると述べられています。これにより、荷物の配送遅延や滞留、サービスの低下など、物流ネットワーク全体に大きな影響がでる恐れがあります。ドライバーの労働環境は、非常に過酷で長時間労働や深夜勤務が常態化しています。厚生労働省の「賃金基本統計調査」によると、ドライバー1人当たりの年間労働時間は約2,500時間と、全産業の平均と比べて際立って長いです。さらに、荷待ち時間が長いなど非効率な勤務体制も問題となっています。2024年の残業時間の規制が加わることで、その分残業代が少なくなることが考えられますが、その結果収入減少による離職が起き、人材不足をさらに悪化させることも懸念されます。物流コストには、輸送・運送費などの「コスト」のみではなく、人件費や企業のシステムなどにかかる「コスト」も含まれます。人件費や燃料費などのコスト高騰が続いており、物流業界の経営を圧迫しています。一方で、ドライバーへの賃金アップは昨今の物価上昇のことを考えると実現しなければなりません。

物流コストの適正な価格転嫁ができないことが、労働環境の改善を妨げており、ドライバー不足という悪循環が生まれます。また、物流コストが増大しても、ドライバー不足でモノが運べないことになるため、物流業界がこれまでよりもパワーバランス上強くなる可能性もあるでしょう。一方で、モノが運べない状況は、日本の経済には悪影響を与えると考えられます。

政府は、物流の効率を阻害する商慣行の是正を図るため、規制的措置を導入します。取引関係の健全化、適正価格での運賃収受、貨物輸送の効率化を加速させるための見直しです。具体的には、一定規模以上の荷主企業や物流事業者に対し、物流効率化に向けた中長期計画の作成と定期報告を義務付けます。中長期計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合、勧告・命令も実施される予定です。トラックの多重下請構造の是正や、適正運賃・料金の収受を確保するための取り組みも行います。令和5年6月2日に創設された「トラックGメン」についても、悪質な荷主・元請事業者への監視・指導の強化も図り、改善が図られない場合は厳正な対処が実施されることになりました。このような施策を遵守できるよう、企業は法令を遵守し、働き方改革に取り組む必要があります。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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