新たな2024年問題?社会保険の適用拡大とその対応
2024年5月15日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.23
<10月から適用拡大 社会保険の適用拡大について>
5月に入りいよいよ本格的な初夏も近づいております。GWも終わりましたが、今年は円安ということもあり、海外旅行では今まで以上に旅費の負担が増えてしまうなど、庶民たる我々にとってあまりうれしくない状況でもありましたが、いかがでしたでしょうか?
さて、物流事業者におかれましては、2024年4月より労働時間の上限規制や改正改善基準告示の適用などにより、ドライバー不足による弊害が顕在化しております。私の身の回りでおきた2024年問題の影響としては、当事務所の近くのビジネス街のバスのダイヤが、人手不足による見直しが行われ、具体的には1日の稼働本数が減らされてしまいました。まさに2024年問題を身近に感じた出来事です。
今月のテーマですが、2024年10月より中小事業者におかれましては新たな課題となるパートタイマーの社会保険適用拡大についてです。これは物流事業者に限った話ではございませんが、具体的には従業員数50人超の会社に対し、社会保険への適用拡大が行われます。現在は従業員数100人超の会社が対象となっておりますが、これが50人超へと適用が拡大されます。
「フーン、それで何が大変になるの?」と思われるかもしれませんが、元々社会保険は週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、常時雇用者の4分の3以下である人は入る必要がありませんでした。通常は正社員などフルタイム雇用の場合、1週間の所定労働時間は40時間ですから、今まではアルバイトやパートタイマーの方については週30時間を超える雇用契約でなければ社会保険加入の必要がありませんでした。今年の10月以降は従業員数50名超の会社については、一週間の労働時間20時間を超える方が社会保険に加入することが必要となります。
パートタイマーを多数雇用している会社の場合、これらに該当 OR 不該当を判断基準にパートタイマーの週所定労働時間を雇用契約していた方も多いと思います。日本は国民皆保険制度なので、日本に在住する人は国籍を問わず、要件を満たす場合は何等かの社会保険に入らなくてはなりません。被用者保険の加入要件を満たす場合は健康保険、厚生年金保険に入るし、これらを満たさない場合は国民健康保険や国民年金に加入することで「何らかの社会保険」に入ることが義務付けられております。しかしながら、世帯主が被用者保険加入の場合、一定要件を満たした親族が世帯主から生計維持を受ける場合、被扶養者になることができます。国民目線で考えれば、被扶養者は社会保険料が発生しませんので、もし要件を満たすのであれば被扶養者になったほうがお得ということになります。
扶養親族にとっては社会保険料も無料、公的給付は被保険者と同等に受けることができるこの被扶養者制度ですが、昨今の社会保険財政の運営困難を背景に、徐々に見直しが適用されております。その大きな要となるのが、社会保険の被保険者適用要件の緩和です。「緩和」と聞くと、何か我々にとってお得になる話のように思われますが、実はその逆であり、今まで社会保険を払う必要のなかった一定の層に対し、新たに社会保険料の支払い義務が発生する制度です。
<社会保険の適用拡大にあたり、50名超の会社が行わなくてはいけないこと>
最初に「従業員数50人超」の定義についてお話いたします。従業員は適用事業所にいる厚生年金保険の被保険者が対象です。ただし70歳以上で健康保険のみ加入している人や、適用拡大により新たに加入することになった短時間労働者は含めません。50人超というのは、いつの時点の人数なのかということですが、10月1日より過去12箇月の各月の人数で判断されます。また全国に本社・支社がある企業の場合、社会保険適用が本社支社ごとに適用されているケースもございますが、法人事業所の場合は、同一の法人番号を有するすべての適用事業所の被保険者の総数で判断されます。このあたり、社会保険適用を拡大したいという国の意図が見え隠れする運用であると感じます。
では、50人すれすれの会社はどうなるのでしょうか?厚生労働省Q&Aによると、新規適用時や合併時に常時 50 人を超える見込みがある場合は、6か月以上 50 人を超える実績がなくても、特定適用事業所該当届を届け出る必要があります。なお、特定適用事業所該当届の該当年月日は常時 50 人を超えると見込まれた事実発生日となります。
また一旦は特定適用事業所(50名超の加入要件に該当する会社のことを指します)になったが、従業員数が50名ぎりぎりで、月によっては49人や48人に減った場合はどうなるのでしょうか?結論から申しますと、その場合であったとしても、引き続き適用事業所として取り扱われます。ただし、使用される被保険者の4分の3以上の同意を得たことを証する書類を添えて、事務センター等へ特定適用事業所不該当届を届け出た場合は、対象の適用事業所は特定適用事業所に該当しなくなったものとして扱われることとなります。さらっと文章で書きましたが、同意書を求めるあたり、中々ハードルは高いといえるのではないでしょうか。
ちなみに10月より特定適用事業所に該当する会社については、年金事務所より通知が送られます。「特定適用事業所該当事前のお知らせ(あるいは「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」)です。これは令和5年10月から令和6年7月までのうち6箇月以上について、厚生年金保険の被保険者数が50人超となったことを要件として送付されます。通知は早くとも9月上旬に送付が予定されています。法改正の施行ぎりぎり直前なので、働き方の選択について見直しを検討される従業員さんがいそうな場合、被保険者に該当しない働き方に切り替えるか否か、事前に確認したほうがよいかもしれません。
適用拡大前に会社がやるべきこととしては、新たに被保険者となるパートタイマーを洗い出し、各人の社会保険料の負担がどの程度になるか試算します。試算の結果を踏まえ、会社として加入を促進するか否か、またパートタイマーに対する説明の概略をまとめます。ちなみに加入しても医療保険においてはほとんど前と変わりません。昔は被保険者と被扶養者の給付割合が異なる時代もありましたが、今は同じだからです。ただし将来もらえる年金額は増額される可能性があります。(老齢厚生年金は国民年金の上乗せ給付のため)
余談ですが、社会保険加入により保険料が発生することを防止するために、社会保険料相当額の手当を支給する、あるいは賃上げなどによる収入減への対応を行った場合、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を受給することができますが、取組の前に様々な準備やその他要件を満たす必要があります。よってこれらを活用するにあたっては、早めの対応が必要です。
厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」より引用。
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/