物流よろず相談所

運賃交渉の行方は

2024年5月1日

物流よろず相談所 


経済産業省、農林水産省、国土交通省はこのたび、発荷主企業・着荷主企業・物流事業者が早急に取り組むべき事項として「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定、公表しました。政府が開いた「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」(議長・松野博一官房長官)で取りまとめた物流の停滞が懸念される2024年問題への対応策である「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づく施策の一環です。ガイドラインでは、物流の効率化・合理化に向け、荷待ち・荷役作業時間を2時間以内にするルールを定めることや、物流への負担となる商慣行の是正、運送契約の適正化などについて定めたものです。

また国交省はトラックの標準的運賃について、運賃水準を8%引き上げる新たな運賃を告示し、2024年6月1日から施行します。同時に、①荷主等への適正な転嫁、②多重下請構造の是正等、③多様な運賃・料金設定などを運賃の見直しの柱としています。標準的な運賃とは、トラック事業者が荷主との交渉力が弱いことや、2024年度から年960時間の時間外労働の限度時間が設けられることを踏まえ、運転者の労働条件の改善などを図るため、2018年の貨物自動車運送事業法の改正により、導入されたものです。 国交省によると、実運送事業者に正当な対価が支払われるよう、「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」を開催して、標準的運賃について、以下の見直しをする方向が決まっています。

2024年4月に突入して運賃交渉がどのように進んでいるのでしょうか?国土交通省が以前にまとめた「トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」はかなり参考となるハンドブックですが、そもそも運賃交渉をしようにも、多くのトラック事業者の荷主には物流業者が多く、このハンドブックのように簡単ではありません。過日トラック協会の講演後の懇親会で経営者の方々と意見交換させていただいたのですが、お話の中には、運賃値上げを直接荷主が通達してきた事例もありました。経産省の働きかけによって多くの業界団体が物流業者との交渉を進める動きをしており、政府主導での取り組みがここでも功を奏していると言えそうです。一方で、大手特積み業者は荷主との交渉を余り進めておらず、私がコンサルティングを実施するメーカ数社でも大手特積み業者からの交渉はまだきていないようです。

交渉先でも問題もあるようです。荷主の物流部は2024年問題に理解を示しても、生産や営業部隊は自分達の今までやり方を是正する考えを余り持っていないようですし、2024年問題を正しく理解できていないようです。運賃値上げも政府が標準的運賃値上げを8%としたことが一人歩きもしているようで、8%の値上げがメーカや流通業ではひとつの基準となっている様です。そもそも実勢運賃が標準的な運賃ベースに回復した上で、8%の値上げであれば良いのですが、実際流通業を中心として、運賃基準は2割上も低い価格での取引が多く、このことも2024年問題の課題ともなっています。運賃値上げは、消費者への価格転嫁となるため、メーカのように流通業では容易でもないようです。

2024年問題が始まった今、少ないドライバーかつ短い時間でこれまでの貨物量を配送していくには、物流DXを活用した効率化は欠くことのできないものです。一人当たり、1台当たりの生産性を引き上げることが問題の解決につながるのです。単純な値上げだけでなく、2024年問題を荷主とよく協議した上で、解決に向けて進んでいただきたいと思います。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

無料診断、お問い合わせフォームへ