物流業におけるM&Aについて
2024年3月27日
物流よろず相談所
3月21日物流業界を震撼させる大きなニュースが飛び込んできました。そのニュースとはAZ-COM丸和ホールディングス(HD)が3月21日、C&Fロジホールディングス(HD)の子会社化を目的とする取引の一環として、公開買付けにより株式を取得すると発表し、詳細な提案を記載した意向表明書をC&FロジHDに提出した、というものです。C&FロジHDは今回の公開買付けに関して、AZ-CОМ丸和HDより事前の連絡を受けていないといいます。C&FロジHDは今後、公開買付けに関する意見を表明する予定で、その内容によっては敵対的買収に進展する可能性もあります。大手企業による大手の買収は珍しいことで、敵対買収にまで発展すると今後に波紋を残しそうです。
日本ではM&Aを始めとする業界の再編が遅れており、とりわけ物流業界の再編が海外より大幅に遅れ、99%が中小企業という脆弱な経営とい実情があります。しかしながらその再編の兆しは確実に出始めていることがM&Aの歴史をたどれば把握できます。ある調査によると、国内物流企業が絡むM&A件数は2009年の52件から増加傾向にあり、2020年では91件となりました。
物流企業では、企業拡大のため従来からM&Aが経営手法の一つとして利用されていました。2桁回数以上のM&A経験を持つ企業が7社もあり、積極的に業界に対して手を打ち業界内の自社のポジションを確保してきました。企業のM&Aはこの手法を活用して大手5社にまで上ったSBSホールディングスやセンコーホールディングスがその代表とも言えるでしょう。物流業界は数年前からソニーの物流子会社(三井倉庫ホールディングスが2015年に譲受)やリコーの物流子会社(SBSホールディングスが2018年に譲受)などのように、大手メーカーからの物流子会社の切り離しが起きています。2020年はそれに拍車をかけて多くの企業が子会社の切り離しに動きました。中でも大きな注目を浴びたのは東芝ロジスティクスとSBSホールディングスの事例でしょう。東芝は経営資源の選択と集中を進める一環として、物流子会社の切り離しを決断しました。東芝ロジスティクスは近年東芝グループの製品以外の取扱量が増加しており、さらには東芝の海外ネットワークやサービスラインナップをSBSが取り込むことによって、強固なサプライチェーンの構築に寄与できると考えたようです。
大手企業の子会社の切り離しは公表されているものだけでも他に4件あり、1年間での数としては過去最多でありました。世の中の移り変わりや新型コロナウイルスの影響もあり、どこに経営資源を集中させるか、そういった選択を迫られている状況の中で大手の動きが目立った事例でありました。業界全体の合計値を見ても毎年のM&A件数は2桁回数以上を推移しています。これに加え先の話の通り中堅中小企業のM&Aは増加傾向にあります。上場企業のM&Aは安定した件数を推移しており、中堅中小企業の件数は増加しているため、物流業界全体としてはM&Aが活発に行われていると解釈できます。
中堅中小企業においてはオーナーの高齢化と後継者不在による事業承継問題、ドライバーの確保難と先行き不安、さらには2024年問題への対応の限界などといった譲渡理由が多くみられます。他方で、譲受企業側は積極的に規模を拡大し成長を目指す準大手企業、成長戦略の一環としてM&Aによる拡大を目指す上場企業の譲り受けニーズが増加。さらには譲渡側と同様2024年問題への対応のために中間拠点を増やしたいなどのニーズがあり、双方のニーズが合致しているため、第三者による事業承継が増加しているものと思われます。
いずれにせよ、再編が遅れがちな物流企業、オーナー後継者問題や加えて2024年問題、今後検討されている多段階構造の是正など物流業を取り巻く環境は大きく変化しそうです。今後も、物流業界におけるM&Aの動きから目が離せません。