労務管理ヴィッセンシャフト

割増賃金の未払いに注意!令和5年の重要労働裁判判例について

2024年3月13日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.21



運送事業者は必見!令和5年度の重要労働裁判判例

3月に入り暖かい日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?2024年4月を前に2024年問題について日々ニュース等で報道されることも多くなりました。もはや物流事業における2024年問題は、現代社会を生きるビジネスパーソン全体にとっても般常識化されたといっても過言ではないでしょうか。

今月は令和5年度の重要労働裁判判例について触れていきたいと思います。ある運送会社の残業関する事例です。昨今、残業代など割増賃金の未払いを巡る裁判が増えております。このような中で、運送会社にとって大きな影響がある判例をご紹介いたします。

ある運送会社の従業員さんが、会社を相手取って時間外労働、休日労働、深夜労働に関する割増賃金の支払いを求めて訴えを提起しました。(訴えられた会社様を仮に「Y社」といたします)。Y社は割増賃金の算定方法として、最初に賃金の総額を決定し、その後に定額の基本給と歩合給を差し引き、残りの額を時間外手当として支給しておりました。その後、労働基準監督署から労働時間管理の指摘を受けたため、デジタコを使用し労働時間管理を行うようにするのと同時に、賃金体系も改めました。変更後は賃金総額を決定した後、定額基本給と時間外手当を差し引き、残りを調整手当として支給することといたしました。

ここまで述べますと皆様も薄々気が付かれると思いますが、このような賃金の算定方法は、運転手の実際の時間外労働や深夜労働の時間数が変化しても、結果として賃金総額は変わらないことになります。しかしながら、形式的には定額の基本給をベースに時間外手当が算定されていることから、コンプライアンスは順守されているようにもみえます。実際にこの紛争ですが、1審では当該従業員さんの主張(残業未払いへの支払い)が認められるものの、その後2審でひっくり返されることになります。

理由は賃金の定額部分と割増部分も明確に区分されていることから、2審では会社の主張が認められ(割増賃金は支払われているものとみなされた)ました。しかしながら最終的には最高裁において、会社の主張は否定されることになります。

◆ポイントは所定内賃金!明確区分性の重要性について

なぜこのような判例が下されたのかをお話する前に、こういった賃金総額を所定賃金と割増賃金に案分し支給される運送会社様は多いと思われます。裁判判例というのは、新聞等に詳細まで掲載されるケースは少ない(物流業界新聞など専門誌を除く)ため、こういった情報について積極的に情報収集していないと、「知らなかった」ということになってしまいます。「知らぬが仏」というコトバもありますが、知らないまま賃金体系を改めないでいると、従業員様から未払いを提訴されたとき、初めてその事実と向き合うことになります。そのような状況は労務管理のリスクマネジメントとして、好ましいとはいえません。

話を戻しますがこの訴訟、なぜ最高裁で会社の主張が否定されたのでしょうか?賃金総額を決定した後、所定内賃金と割増賃金を案分するというのが問題だったのではないかと思われるかもしれません。しかしながら重要なのは「労基の指摘後」改め直した賃金体系の在り方です。もともとは「基本給+歩合給」→(割増賃金計算)していたのですが、改定後は「基本給」→(割増賃金+調整給)と、割増賃金の計算基礎とする所定内賃金について置き換えされたことについて前半でもお話したと思います。つまり賃金改定があったものの賃金総額は変わらず、割増賃金について旧給与体系の通常の労働時間の賃金部分の一部が「置き換えられてしまった」と解されました。そうなると当該割増賃金部分について、通常の労働時間の賃金部分と時間外労働に対する割増賃金が混在することとなり、双方が判別できないということになります。固定残業制等の裁判で争われる際の争点となる「明確区分性」が無くなるため、会社の割増賃金は不適切である・・・というのが判例の趣旨です。

非常にややこしい話ではありますが、このような形で割増賃金を算定されている運送事業者様も多いと見受けられます。この判例からいえることは、賃金総額を決定後、所定内と所定外賃金を割り振るという手法が、全て否定された訳ではありません。要点としては、新旧の賃金体系のうち、通常の労働時間の賃金部分が減らされた上で、割増賃金に「置き換えられた」経緯がポイントになります。

2024年問題を前に、労働時間管理及び賃金体系の見直しを検討されている運送事業者様も多いと思いますが、ことに割増賃金については紛争が多い事案となりますので、十分な注意が必要です。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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