物流なんでも相談所

物流クライシスとアウトソーシング

2023年5月10日

物流なんでも相談所 Vol.63

 

物流クライシスが叫ばれるようになってきました。2024年問題を契機に、メーカー等の荷主にとって安定した物流が危うくなりつつあるからだ。人口が減少するという社会現象としてのマイナス面を抱えた中、ますます難解になっていく物流業務に対し、どのように取り組んでいけば良いのだろうか。“物流”のラインに乗ることが運営上不可欠であるメーカー企業がほとんどだけに、物流インフラの危機への対応は産業界全体が生き残りをかけて取り組むべき課題であるはずである。物流業者側も身を切る覚悟で賃金を上げ、好条件で募集をしてみるも現在では三つ巴よろしく他業種との奪い合いも発生、思うように人が定着育成できていないことでインフラが不十分な要因でもある。常に人の流出リスクを抱えながらも物流サービスを続けねばならない苦しさは簡単に解消されそうにもない。物流作業そのものを簡素にし、さほどスキルを追求せずとも仕事ができるようにすることで、賃金を安くしようという試みも“日本人向きではないようだ…。根底にある大きな課題とも言える“物流業の社会的地位向上”がどうしても進まない以上、企業側の努力や優れたアイディアも成果に結びつきにくいという事もあるはず。「物流コストは安い方が良い」とか「商品は無料で届くのが当たり前」というような考え方が長い間日本には根付いていた。荷主であるメーカーや流通業がそのことを当然と認識していたことも事実だ。

これまで荷主であるメーカーや流通業は物流コスト低減をただ輸送費のカットだけで実行してきたと言っても過言ではないだろう。現況のようにドライバー不足が現実となり、物流に支障をきたすようになってくると、“モノが届かない”物流の危機がメーカーや流通業など荷主にも現実のものとなって覆いかぶさってくることになるのは間違いないだろう。政府の試算によるとこのままだと2030年には、約10億tの貨物が運べなくなると考えられている。

この現実の中で、いかに物流アウトソーシングをすればよいかを検討してみよう。海外からのメーカー企業が多く参入し、物流業務やSCMの高度なノウハウにも立ち向かっていかねばならぬ現在、やはり捨てるものと、集中して強化するものを正しく選ぶことが絶対必要になってくる。正しいアウトソーシングを進めるには何をすればいいのか、ここで考える必要がある。まず物流業務に頭脳労働は不要という考え方を捨て、正しい物流サービスを展開できる事業者にアウトソーシングを進めなくてはならない。委託する物流業者との間できちんとSLAを結ぶことが正しい物流アウトソーシングには必要である。アウトソース検討時に一番重要な事は、アウトソースで何を行いたいのかを決めることが大事である。アウトソーシングの目的は多くの場合、コスト削減と効率化だと思われる。しかしながらアウトソースの狙いがはっきりしていないことも少なくない。それは現状の課題分析ができていないためと考えられる。 物流をアウトソースする方針が決まっても、何を、どこに、どうやってアウトソースするか決まっていない場合も少なくない。アウトソースの範囲には、「輸送」だけ、「物流センター」だけ、「輸送と物流センター」等、様々なパターンが考えられる。何をしたいのかということを、まず明確にさせなければならない。

人手不足に端を発した変革はBtoB輸送のあり方にも及び始めている。これまで荷主の効率化策として受け入れざるを得なかった多頻度少量配送や時間指定などBtoB輸送における悪しき商習慣とも言えそうな状況を改善すべく、トラック業者による不採算荷主からの撤退も始まっている。恐る恐る(!?)始まった運賃値上げも、少しずつ国民意識の中に浸透しつつある様だ。進む高齢化を強く意識し、地域に深く食い込んで単価を増やしつつ、徹底した共同化により省力を図る戦略も増えてきた。自社の“今”に最も合ったやり方を模索しつつ、各社試行錯誤を繰り返している“日本物流業進化の時代”を我々は生きているのかも知れない。少ない人材を正しいマネジメントでまとめ、物流現場を単純作業の“処理場”から“人を育てながら、日々改善”できる最強の“現場”に昇格させる幹部の育成…まず取組みたいものである。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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