進まぬ2024年問題対応
2023年3月29日
物流なんでも相談所 Vol.60
新型コロナウイルス感染拡大以降、ネットショッピングの利用率増加などに伴い、EC市場は急速に拡大しています。その一方、物流業界では人材不足や長時間労働が深刻な課題となっています。このような中で、2024年4月より運送業やトラック含む車両運転業務に対しても「働き方改革関連法」が適応されることになります。この法令に対する動きを「2024年問題」と言います。
年明けと共に近づく2024年「時間外労働時間の上限規制」問題。しかしその前に2023年4月以降、中小企業に猶予されていた「時間外労働割増賃金率の引上げ」が物流業界にも導入されます。ご存知の通り、この変更で月間60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、現行の25%から50%へと引上げられることになります。原材料費や燃料費の高騰に加え、人件費のさらなる値上がりが経営の維持に与える影響はやはり大きいものと言えるでしょう。
2023年、2024年とも働き方改革に関する法律の施行でこれは物流業界の従属的な地位によって引き起こされていると言っても過言ではありません。物流業界の過重労働は構造的な問題であり、多くの場合、是正のためには荷主企業の理解と協力が不可欠です。荷主の理解というと運賃値上げを思い浮かべますが、運送業者と荷主企業の双方がそれぞれの立場から喫緊の問題として労働環境改善に取り組み、過重労働や労働時間の削減に成功している事例も数多く見られます。厚生労働省のHP等で公開されている「荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例」では、長時間労働の削減に成功した好事例が多数紹介されています。物流業界全体の働き方改革を推進していくためには、荷主企業と運送業者が自主的・積極的に改善に取り組んでいくことが期待されているのです。
これまで多くの国内運送業は外部環境や度重なる法改正などに伴う変化に対し、知恵や工夫、努力をもってこれを乗り越えてきました。しかし、人手不足に加え、コロナ対応やウクライナ問題など日を追うごとに課題が増えていく現代においては既存の努力のみでは解決できないものも多く残りそうです。
2023年、2024年、それぞれの課題をどのように解決していくか、各社すでに取組みを始めておられる事と存じますが、ポイントはやはりある程度のデジタル活用で少ないマンパワーを補っていくことにあると言えそうです。新たな投資は必要かも知れませんが、従業員の労働時間を短縮することにつながれば、結果として人件費は削減出来ますし、「社員の働き方改革」という目的のためにも最適な方法であるはずです。
国交省、経産省、農水省、有識者などの試算によると、2030年10億トン近い輸送力が不足すると言われています。一番の原因はトラックドライバー不足と2024年問題によりドライバーの長時間労働ができなくなること、特に大型ドライバーが著しく不足することなどが要因と考えられます。物流の人材不足の影響は経済や国民生活など社会全体への影響が大きいことから、政府はこれまでホワイト物流の推進や貨物自動車運送事業法の改正をはかるなど多くの対策を進めてきました。標準的運賃を公示や荷主団体への働きかけなど進めてきましたが、効果はまだ十分とは言えないようです。
物流企業の中にはすでに残業時間を月間で60時間以内に設計しながらも、運賃や物流受託サービスを拡大することで、生産性を高めこれまでと同じ給与水準を維持できる体制に切り替えた企業も出ています。2024年問題が進むと運送業者の中で、勝ち残る物流業者とそれ以外の住み分けが進むかもしれません。