「インフレ手当」について
2023年3月8日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.9
◆円安、原油高による物価高、会社はどうする?
昨今、円安やウクライナ情勢などによる原油価格高騰を背景に、前代未聞の物価高が生じております。物価が上がり賃金が据え置きですと、実施賃金が目減りということになります。名目賃金が下がると労働者側は大騒ぎしますが、名目賃金への反響は少ないというのが一般的です。しかしながら、物価高騰は日々深刻化しており、さすがに世間の注目も集まっております。
そのような中で、従業員の実質賃金目減りを緩和するために、インフレ手当を支給する会社も出てきております。大手企業は基本給ベースアップを行うところもありますが、中小企業の場合、財源が無いことも多く、容易ではありません。
そもそも前提として、会社が物価の影響を考慮する必要があるか?という問題があります。労務管理的な観点から考えたとき、インフレ手当の支給は生活の不安を解消するものであると共に、従業員のモチベーションアップや人材流出の防止策としても有効であるといわれております。人材不足に悩む運送事業におかれましては、仮にライバル企業がインフレ手当を支給しているとした場合、当社における検討も無視できない状況にあるといえるのではないでしょうか?
◆インフレ手当は、いかなる支払方法があるか?
私個人の意見ですが、そもそも「インフレ手当」という言葉に違和感を覚えます。インフレとはモノの値段が上がり続ける状態のことですが、一般的には国の経済が発展しているときなど、好景気に伴い生じるものだからです。日本の賃金は約30年近く上がらない状態が続いております。先進国の成長という観点で見たとき、日本は不況を脱していないともいえ、そのような中で生じている物価高であれば、厳密にいえばスタグフレーションといえるのではないでしょうか?
円安やウクライナ情勢を語りだすと、政治の話になってしまいますのでここで控えておきますが、私と同様の感覚をお持ちの方も多いと思います。しかし今の社会通念に併せてここでは「インフレ」ということで述べさせていただきます。
話がはずれましたが、インフレ手当の支給方法は2通り考えられます。一つは一時金支給での支払い、もう一つは月額手当として毎月支払うという方法です。大手の企業であれば、ベースアップや基本給底上げといった固定給の引上げに着手している会社も見受けられますが、今の状態がどれだけ続くのか、先を見通せない現状を考えたとき、この二つの支払い方法が有力になると思います。
一時金としての支払いというのは、具体的にいえば賞与等にインフレ手当を加算して支払う方法が挙げられます。賞与加算形式であれば、将来現在の景気状況に改善が生じたとき、それに合わせて無くすことも容易にできる利点があります。
また月額手当にした場合、毎月の給与に新たな手当を新設するという方法になります。物価高は日常生活に影響を及ぼしていることを考えますと、月額手当のほうが望ましいといえます。しかしながら、財政状況で人件費に回すことができない場合、一時金で支払うというのも、悪い方法ではありません。
月額方式にするほうが、従業員側からみたときありがたみが増しますが、デメリットもあります。それは固定給増ということで、社会保険料の引き上げが生じるからです。厳密にいえば、一時金方式も保険料には影響を及ぼすのですが(総報酬制のため)毎月の社会保険が上がることのほうが、インパクトは大きいといえます。
もう一つの懸念事項として、インフレ手当を支給する従業員をどこまで含めるか?です。結論から申しますと、正社員だけでなく、契約社員や嘱託社員、アルバイトも対象とするべきと考えます。その理由ですが、物価高へのクッションという目的から考えたとき、雇用形態に関わらずその影響を受けているからです。また同一労働同一賃金の観点からみても、異なる労働条件というのは好ましくありません。ただし金額は全く同一である必要はないと考えます。
最後に、帝国データバンク「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」によりますと、インフレ手当を支給している(検討含む)会社は26.4%、支給する予定はない会社は63.7%、わからないと答えた会社は9.9%となっておりました。また、インフレ手当に取り組む企業のうち、一時金と回答した会社は66.6%、月額手当と回答した会社は36.2%でした。
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221106.pdf
「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」(帝国データバンク)