デジタルマネーによる給与支払い解禁が始まります
2023年2月8日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.8
◆デジタル賃金制度について
昨年11月の労基法施行規則改正により、本年4月1日からデジタルマネーによる給与支払いが可能となります。従来の労基法における賃金支払いの原則では、現金を直接労働者に支払いしなければならなかったので、デジタルマネー支払はその原則を揺るがす大改革となります。近年キャッシュレス化が急速に進んでいる日本社会ですが、ここまで一足飛びに改革するのか?と驚いた私です。
デジタルマネーによる給与支払いと聞くと、中には不安に思われる方もいらっしゃるかと存じます。「自分の給与が現金でもらえなかったら、どうしよう」「毎月のローンの銀行引き落としが出来なくなる」等、ふっと思いつくだけでもいくつかあります。果たして問題はないのでしょうか?
今回対象となるデジタルマネーは、資金決済法における「資金移動業」によって行われるものに限定されます。資金移動業とは、利用者に対してウォレットやアカウントを提供し、あらかじめチャージした金額に応じてデジタルマネーを発行し、決済や送金に利用できるサービスを指します。
この資金移動業というのは、いわゆるスマホ決済で採用されている方式のものですが、従来のデジタルマネーとは異なるものです。大きな違いは、デジタルマネー口座に入金したお金(〇〇ペイでいうチャージしたお金)を、現金や銀行口座に戻すことが可能な点です。したがいまして、当初ふれました「毎月の口座引き落としによる支払はどうしよう?」や「〇〇ペイに対応していないお店(あるいは商品)で購入することができない」といった心配は不要ということになります。ただし、資金移動業者がこれら対応を検討しているコメントはあるものの、今後どうなるのかは不明です。
それでは政府はなぜ、デジタルマネーによる賃金支払いを進めているのでしょうか?
いくつか理由はありますが、一番大きいのは日本におけるキャッシュレス決済の推進により、金融サービス提供を拡大することです。そのことにより国際競争力を強化したいという理由があります。とりわけ人口減少にともない、技能実習生のような外国人労働者の受け入れ拡充を推進することを考えると、このような規制緩和も大きな意義をもつことになるでしょう。
デジタルによる賃金払いのメリットは労働者側、企業側それぞれにあります。企業側としては、振込手数料などを削減できる効果があります。労働者側のメリットとしては、普段使っている決済サービスに給与が入金され、すぐに使える点です。
また、ペイペイなどのサービスは、100万円という金額の上限があります。法改正後もこの上限は変わりません。従って100万円を超えるチャージがあった場合、登録口座に自動払い出し等を行う必要があります。ここからいえるのは、デジタル給与払いを利用するには銀行口座も必要という点です。
◆デジタル賃金により企業が準備すべきこと
会社として給与のデジタルマネー払いを行うにあたって、就業規則改定や労使協定の締結といった準備が必要となります。就業規則には、「従業員が希望する場合・・・デジタルマネーによる賃金支払いをすることができる」旨の規定をする必要があります。先にも述べましたが、資金移動業のサービスは100万円が上限なので、超えた場合の預金口座を労働者が指定する旨の規定も必要です。
また、現在でも給与を振り込みする場合の労使協定の締結が必要ですが、給与のデジタルマネー払いにおいても、これら協定を締結する必要があります。協定には(1)口座振込等の対象となる労働者の範囲(2)口座振込等の対象となる資金の範囲およびその金額(3)取扱指定資金移動業者の範囲(4)口座振込等の実施開始時期・・・以上4点について協定する必要があります。
またデジタル賃金支払は会社が一方的に決めることはできず、労働者の同意が前提となります。また、会社側が業者を勝手に選定し、労働者側に使用を強要するということはできません。これら強要が行われ、労働者側から申告があった場合、労働基準監督署において適切に対応する旨、労働政策審議会でも議論がされてきました。
イメージとしては、労働者側が希望→会社側は必要事項を説明→同意を得た後、デジタル支払可能・・・という流れになります。なお、会社の必要事項説明とは、指定資金移動業者の指定要件(滞留規制、破綻時の保証、不正引出の補償、換金性、アカウントの有効期限)となっております。
新たにスタートする制度なので、まだイメージがつかみにくいところも多いのですが、今後対応してゆく会社も増えてゆくと思います。対応できる資金移動業者も不明であり、実際4月からスタートできるのか不明な点もありますが、今後の変化が気になるところです。