物流業におけるマーケティングの重要性
2022年8月31日
物流なんでも相談所 Vol.48
物流業に大きな変化が訪れつつあるようです。物流企業は、今まで顧客である荷主に言われたことを実施することが業務の中心となる受注産業でした。そのため企業としてなすべきマーケティングや顧客ニーズを知ろうという努力があまりなされることは多くありませんでした。多くの物流企業には顧客ニーズの分析などマーケティングの概念が存在していないように思えます。
これはいわば競争の厳しい荒れ狂う海に羅針盤と地図を持てず航海に出るような無謀と思われるものでしかないことはご理解いただけると思います。経営者の方々がここまで何とか懸命の努力で企業を維持されてきたことは大変なご苦労があったと推察されます。物流においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)が当たり前とされる時代になりました。データを活用し、対策を施す必要があるのは当然でしょう。しかし今後展開していくにはそれだけでは不十分なのが変化の激しい今日の物流業。企業が発展するために他社との差別化は重要となります。
そのカギはマーケティングにあると言っても過言ではないでしょう。しかしながら多くの物流企業ではこのマーケティングが全くと言っていいほどなされていないことは先に述べた通りです。マーケティングを行なわないと企業成長はできないと言っても、これまで受注産業であった物流業経営者にとってそのやり方がわかっていないことも多く、決して易しいことではないかもしれません。ではマーケティングはどこから始めるのがいいか考えてみたいと思います。既存顧客に目をつけ、自社がこれまで受注できたのは何故か、どこが他社より優れているか考えてみることが第一ステップとなります。次にその優れた点から生み出されているサービスを磨きあげ、その商品を必要とされる顧客へ提供することです。このサービスを必要とする顧客はどこにいるのでしょうか?既存顧客の同業や類似する業務内容を含む顧客など身近にいないか探してみると案外身近にいるものです。
次に、サービスにおける差別化ですが、まず他社がやっていないことをやる、と考えると案外色々なことを考えつくものです。いいアイディアが浮かんでも自社でそのサービスを実施しようとするとなると、これまでのやり方を変えたくない抵抗勢力もあり、上手くいかないかもしれません。そこでは考えることはできても、実際に実行できていないという事象が発生してしまうことが多いもの。大事なことは実行することです。他社のやらないことをやるうえで、何が弊害になっていたのか、意欲をそぐ要因になっていたものは何か、を洗い出すことで解決へ向かうことができるはずです。しかし何故抵抗勢力が生まれてくるのでしょうか?それはコミュニケーション不足とマネジメントができていないからと推察されます。そこでこれら弊害となるものを明確にし、目的がはっきりとしたら、その進め方・プロセスを管理して行くと、より具体的に違いが明らかにできるようになります。この目的と実際との乖離を記録し、その要因を発見し、それを改善するというフィードバック方式がイノベーションのために必要とされてきます。具体的にはアクションに移すには、他社で実施していることを真似る、自社で行うためにその方法を学ぶ、そして不整合な点を改善し自社独自のものにまで高めることで差別化商品を生み出すことができるはずです。どんなに苦しくても、自らの技術とサービス品質を持ち、自らの力で製品を開発し、自力でマーケットを開拓して行くことこそが重要なのです。
例えば身近に存在している顧客が困っていること、それを洗い出し、その業界で必要となるであろうサービスを自社で商品化してみてはどうでしょうか?ここで一つの事例を挙げて考えてみましょう。小ロット貨物の積み合わせによる全国での時間指定納品サービスのニーズが高まっています。それが必要だとわかっていても、特積み業者でも、一般貨物業者でも商品化されることはありませんでした。これまでやった事業者がいなかったからだと考えられます。そのニーズを企業物流分野に強化を図っていたヤマト運輸が気付き、それまでの自社サービス、輸送能力範囲超えたものあったにも関わらず商品化を考えました。そこで自社のネットワークだけでなく全国配送を得意とするセイノウホールディグスの西濃運輸幹線便、日通などの協力でネットワークを構築しました。受け入れ、配送ネットワークとして全国の特積み業者が参加することでJITBOXチャーターとして商品化され、定着化されたことは記憶に新しいところです。今日多くの荷主企業がこのサービスを利用していることは周知の事実です。
自社において、今後身近なエリアでの戦略を考えると、買い物代行、必要頻度の少ない家財道具など保管など考えられないでしょうか。現在の顧客が困っていることは何か、それをサービスとして実施するにはどうすれば良いのか。それがすでにサービスとして実施されていれば、それを他の顧客へのサービスでも展開できないでしょうか、顧客目線で考えると意外なほど新しい商品サービスが考えられるものです。その商品を市場に導入するまでには数多くの努力や苦労が必要となることでしょう。苦労は無駄になることは決してありえないはず。苦労には有形、無形の利子がついてくるもの。有形の利子とは完成した商品サービスや、身につけた技術力、人間性など。無形の利子とは情熱、熱意、執念さえあれば不可能を可能にできるという自信、前向きな考え方など。明るいことが見えない今こそ、これまで以上の努力が必要だと言えるのではないでしょうか。