物流クライシスへの対応は?
2019年10月16日
物流よろず相談所
厳しい残暑が続く9月、10月大規模な台風が次々と発生し、各地に大きな被害をもたらしました。長期にわたる停電や断水に見舞われた千葉県では、自治体の初動遅れや東電の見込みの甘さが指摘されました。過去に大きな台風被害を経験したことがなかったとする千葉県ですが、昨年9月の台風21号で、関西地区が大規模停電に苦しんだ事は教訓とできなかったのか、疑問視する声も多いようです。93億円近いとされる農作物被害が、今後市場に与える影響も覚悟しておかねばなりません。過去の苦い体験を生かした対応を、緊張感を持って続けて行くことは確かに至難のわざでありましょう。想定しづらい自然災害に加え、さらにその被害を予測し、備えるためのBCPを確立する難しさを、改めて思い知らされも致します。
予測困難な事態への対応を考える時、忘れてはならないポイントが“自社の果たす役割と貢献”です。社員、顧客、そして地域に対し、それぞれ大切な役割を負って事業を継続しているのが“企業”というものです。優先順位はあったとしても、関係各所への貢献を考え理解した上で、1秒でも早い復旧を目指すことが重要でしょう。BCPは自然災害対応に限ったものではないことは前月号でもお話しいたしました。自社の事業継続に支障をきたす恐れある様々な事態に備えるものですが、この時もやはり正しい経営がもたらす貢献を頭に置き、進めていく必要があります。消費税増税を経て向かうその先には、すでに2020年が間近に控えています。足踏みも許されないこの時期ですが、社員全員の向かうところを1点に絞り、共に成長することを確認し合って参りましょう。
昨年から今年に入り、各省庁が相次いで日本が本格的な人口減少社会に突入した、というレポートを発信しました。世界でも例を見ないスピードによる“人口減少と高齢化が進む国”として、海外からもその動向と対策が注目されている。生産年齢人口(15歳から65歳まで)は総人口の減少に先んじ、既に2008年をピークに減少へと転じており、その影響は物流業界の現場でも深刻となっています。ドライバーや倉庫内スタッフの不足は慢性的な業界の大問題として久しいものがあります。更には「賃金上昇傾向に逆らう訳にもいかないが、少しでも残業がかさむと利益が消えそうになる」などの悩みを私自身打ち明けられることもよくあります。人不足、賃金の高騰などの課題に加え、物流業界はアマゾンショックとも言われるEコマースの増大による課題も突き付けられています。
ラストワンマイルと言われる配送ネットワークは宅配業者いぜんでは難しい局面を迎えています。衣類や書籍に留まらず、食料品など生活に必要なもののほとんどをインターネットで購入するという人も増えてきているだけにそれを支える物流インフラはまだまだ状況に追いついていないままでもあります。Eコマース最大手のアマゾンは独自ネットワーク構築に取り組んでおり、物流配送システムそのものが大きく変わる可能性もあります。購入商品は、温度帯指定の商品や大小様々な形態のもの、また精密機械や大変高価な品などいずれも注意を払う必要が不可欠と言えるものばかりとなっています。加えて人々の生活はとても多様化し、それらのニーズにいかに応えきれるかで付加価値の判断も分かれてくるとあっては、荷主であるメーカや流通業者要望に応えるため物流業者の工夫と努力も今後さらに試されてくることになるでしょう。夜間時間帯での納品指定や自宅近くのコンビニで受け取ること等が普通にできたり、簡単に返品できてしまう商品もなぜか増え、このままだと宅配業者の仕事量は延々と膨らみ続けることになってしまいそうです。
これらの複雑な購買活動を支えるためには、トラック、情報端末、倉庫、国内および海外ネットワークなどのハードアセットに加え、ありとあらゆる情報システムなどのソフトアセット、そして何よりも様々なレベルでのヒューマンアセットがどうしても必要となってきます。人口が減少するという社会現象としてのマイナス面を抱えた中、ますます難解になっていく物流業務に対し、どのように取り組んでいけば良いのでしょうか。“物流”のラインに乗ることが運営上不可欠であるメーカ企業がほとんどだけに、物流インフラの危機への対応は産業界全体が生き残りをかけて取り組むべき課題であると言えるのではないでしょうか。