「BCPを見直す」
2019年9月4日
物流よろず相談所
「BCP」(事業継続計画)という言葉が東日本震災後、耳にする機会が増えていましたが、8年を経過した今、少しずつその影響も薄れ始めているのかもしれません。
台風や豪雨など自然災害が頻発する今日もう一度物流業におけるBCPの必要性を考え直してみたいと思います。東日本大震災では、物流企業に限らず多くの中小企業が貴重な人材や設備を失ったことで廃業に追い込まれたケースも少なくありませんでした。被災しなかった企業でもサービスが供給できず顧客が離れてしまい、事業縮小や従業員の解雇に至るケースが多く見られました。BCPとは、こういった緊急事態への備えを指すものです。
物流連では、2014年3月に「BCP策定状況アンケート」の結果を発表しました。同連合会では平成24年8月に「物流業のBCP作成ガイドライン」を作成しており、アンケートはそれを踏まえてのものでした。同アンケートによると、全体の44%がBCP策定済みで、38%が策定中でした。8割の事業者がBCP策定に積極的に取り組んでいたことになります。しかし、回答者の企業規模を見ると100人以上がほとんどで、車両数10台以下の運送事業者がBCP策定に取り組んでいるとは考えにくい部分もあります。
東北大学とニュートンコンサルティングがこのほど発表した「中小企業BCP調査報告」によると、BCPを導入した中小企業の70%が「社長の指示」によるものでした。「取引先の要請」は12%ほどにとどまっており、「BCPの定着には社長の指示のほかに力量のある責任者と社内の盛り上がりが不可欠」とも説明しています。また、前出の物流連のアンケートでは、「BCPを策定する上で、どこまで想定するか」という問いも多くありました。地震などの災害やインフルエンザまでがほとんどで、交通事故や荷主の取引停止などを想定する事業者はほとんどなかったことにも驚かされます。
BCPは事業継続をする中であらゆるリスクへの対応を意味するからです。重大事故でも事業継続はできないでしょうし、1社荷主への依存度が高いとその荷主の海外シフトや合併などによって売上が全くなくなるケースも想定されます。事実、中部地方の運送事業者の証言によると「売り上げの3分の1を占めていた荷主から、いきなり今月いっぱいで…と言われた」ことがある。「正直、もうダメかもしれないとも考えた。ドライバーの頑張りで何とか持ちこたえたが、それ以来、売り上げに占める割合を抑えるようにしている」とコメントしています。別の運送事業者も「ウチの場合はこちらから荷主を切った。不当な値下げ要求を繰り返し、原価割れした仕事を続けることは経営的に無理となった。荷主と何度も交渉した後、その仕事を断ることに決めた。ドライバーからは“気持ちはわかるが、本当に大丈夫ですか”と言われた。全社員を集めて説明し、売り上げ維持に協力を求めた」という。
前出の2社とも、何とか難を逃れたものの、危機管理をしていたとは言いがたい状況にあったことも事実でしょう。2014年2月に発生した大雪でも物流がストップしてしまい、スーパーやコンビニから商品が消える事態が発生しています。今年の九州豪雨では物流が麻痺し、消費者生活にも影響が出るなど今後いつ起こるかわかない自然災害に備えなくてはなりません。
ECなどの躍進で商流の変化は荷主の再編な引き起こすことになります。ネット通販で家や自動車などが販売される時代が訪れています。メーカも共同販売を念頭に、物流子会社の一本化など再編を進めています。今後どのような荷主再編が起こるのか、今のうちから備えておくことが重要です。物流事業者にとって「BCP」策定は避けて通れない道となっていると言えるではないでしょうか。