未払い賃金問題について
2022年7月13日
労務管理ヴィッセンシャフトvol.1
◆ 運輸業になぜ未払い賃金問題が多いのか?
さて今月のテーマですが、ズバリ未払い賃金です。未払い賃金といいますと、給与支給日に賃金の振込みがないというイメージをされるかもしれませんが、広義の意味でいえば、賃金の一部が未支給、あるいは適正な賃金計算がなされていない結果、労基法の最低基準に満たない給与なども含まれます。
これらは必ずしも会社の悪意によるものばかりとはいえず、労基法の知識がない経営者の不適切な賃金計算により生じることもありますので、注意が必要です。とりわけ割増賃金・・・俗にいう残業代につきましては、世の中に多くの誤解やご理解がありますので、適正な知識が必要です。
昨今は未払い賃金をめぐる労務紛争が増加しております。その背景にあるのは、弁護士業界での取り扱いが増えていることです。昔は弁護士における労務紛争案件は「手間がかかる。もうからない」でした。しかし昨今では、過払い案件がひと段落ついた後、取り扱う弁護士さんが増えてきました。物流業界では顕著で、ドライバーの残業代未払いの相談案内のチラシを高速道路SAなどで見かけた方も多いと思います。
弁護士さん達はなぜ、ドライバーに訴えかけているのでしょうか?実はドライバーの賃金に関しては、経営者がきちんとした理解をしていないケースが多いのです。
その代表格は残業代です。一番多いのは、乗務手当(歩合給)に残業代が含まれているというケースです。果たしてそれは適切といえるのでしょうか?
結論から申しますと、不適切な取り扱いがされているケースが多いです。歩合給が時間外見合いということ事体が違法ではありません。しかし、乗務手当の本来の趣旨は、歩合給であり、労務成果に対する報酬です。具体的には売上に対する歩合や走行距離、作業内容に対する歩合などが挙げられます。つまり乗務手当を残業代見合いとする以上、そのうちのいくらが業務歩合で、いくらが残業代見合いなのか?また残業見合いは何時間分の残業手当なのか?その額は法定割増率を上回っているか・・・あらかじめ労働契約上明確にし、就業規則等に定める必要があります。そのあたりを曖昧にしたまま、残業代見合いとして歩合給を支給した結果、会社側が裁判で負けているケースがあります。また、歩合給そのものにも残業代は課せられますので、未払いとなっているケースも多くあります。
◆ 要注意!未払い賃金回収は極めて簡単
歩合給を残業代見合で支給する話は、実は非常に複雑であり、数文字で書ける話ではないのですが(皆様のご興味があれば、今後話題にしたいと思います)、いずれにせよ、残業などの割増賃金未払い案件は非常に多い印象があります。実はこのあたりの話は、経営者だけでなく、訴える側のドライバーも正しい知識を持っている人は少ないです。だからとにかく弁護士に相談すれば、何らかの未払いが発覚する。さて、どうしますか?紛争しますか?そのままにしますか?・・・という話になるわけです。
労務紛争=裁判というイメージをされる方が多いと思いますが、実は裁判ばかりが紛争解決手段ではありません。訴訟(裁判)や労働審判の他に、ADR(裁判外紛争解決手続)という方法があります。ADRは裁判によらず、法的なトラブルを解決方法です。具体的には仲裁、調停、あっせんなど、様々なものがあります。
裁判は専門的な法律の知識を求められるため、弁護士などに訴訟代理人を依頼すると思いますが、弁護士費用は高く、手を出しにくい印象があります。半面あっせんや調停は、個人でも可能であり、短時間で解決が可能な手段となります。代表的なものは、都道府県労働委員会による個別労働関係紛争のあっせんです。「都道府県労働委員会??」始めて聞く方もいるかもしれませんが、行政が間に入って行うあっせんです。代理人を立てなければ、タダで解決を図ってくれる機関です。例えば会社の従業員が何等かの不利益を被ったとして、ユニオンに行く人もいれば、労基に相談する人もいます。一番多い駆け込み先は、身近な労基ですが、労基は法令の最低基準を満たしているか否かという取締りはしてくれますが、ハラスメント被害などの民事紛争は対応してくれません。その際、労働局の総合労働相談センターを案内されることがあります。総合労働相談コーナーに行くと、都道府県労働委員会の存在を知らされ、個別紛争解決へ・・・という流れです。
ただし、一事不再理の原則があるため、あっせんなどの個別紛争で解決した事件を、後から裁判などで蒸し返すことはできません。しかし労働者が手軽に個別紛争を起こせる手段なので、利用されるケースも増えております。
いずれにせよ、会社としても従業員側の手軽な紛争解決チャンネルがあることを認識し、適正な賃金払いを行う必要があります。「裁判なんてそんな簡単にできないだろ」などと舐めてかかると、痛い目に合うこともあります。会社は自社の賃金支払が労基の最低基準を下回っていないか確認し、場合によっては専門家の力を借りつつチェックしたほうが良いですね。