旅するお荷物

兵站と物流(その2)

2025年4月16日

『旅するお荷物 vol.6
大原 欽也


兵站と物流(その1)はこちら

【物流】
さて、いまさらですが物流とは何かといえば、要するに「倉庫とトラック(+船など)」です(我が国の輸送モードは荷量の90%以上が自動車)。その機能は何かといえば「保管と輸送」です。さらにその目的は何かといえば「供給の完遂」です。なぜ供給するのかといえば、そこに需要があるから、です。では、なぜ供給の完遂のために、保管と輸送が同時に必要なのでしょうか。

~保管と輸送の統合~
元々、保管を担う倉庫業(ウェアハウス)と輸送を担う運送業(トランスポーテーション)は別の業界とみなされていたようです。それが、供給を満たすためには、一緒に考えたほうがよいということになったのだと思います。それぞれについて考えて見ます。

機能としての保管は何をしているかといえば、時間のギャップ調整です。大体において、生産(供給)は商品を断続的に大量に作ります。一方で消費(需要)は連続的で少量ずつです。当然そこにはギャップが生じるので、バッファーを設けることで需給のギャップを解消します。バッファー装置が倉庫です。バッファー容量が保管量ということです。図表4に倉庫内での荷の動きを模式的に示します。

図表4:倉庫内の荷の動きの模式図

ちなみに、保管量は出荷予測に応じて決めるべきですが、欠品を恐れるあまり往々にして詰め込みすぎたりします。これは百害あって一利あり、ぐらいなので、ぜひとも控えるべきですが、長くなるので詳細は控えます。

次に、機能としての輸送は何をしているかといえば、空間のギャップ調整です。倉庫からの供給は、理想をいえば消費地での需要量だけ出荷し輸送すればよいのです。ところが、輸送モードにもよりますが、例えばトラックだと需要に対して大きすぎることがほとんどです。大きな荷台に小さな荷物では、今度は経済効率が悪くなります。図表5にトラックの容量を示しますが、輸送モードも限られるのです。ここら辺はサプライチェーン構築の腕の見せ所でもあるのですが、その話はおいといて、要は需要の実態と経済効率のバランスということになります。

図表5:トラックの積載重量と積載容量

ところで、輸送も、距離やデータ連携に応じて時間がかかります。なので、この間のリードタイムも保管のうちに含めて考えることになります。というわけで、供給完遂のために時間的・空間的ギャップを埋めるためには、保管と輸送を同時に管理する必要があったわけです。産業の伴い需要と供給の間を効率化が求められたのだと思います。

とりあえず、倉庫業(ウェアハウス)と運送業(トランスポーテーション)をくっつけて、フィジカル・ディストリビューション、と呼ぶことになったようです。日本では直訳して、物的流通、といいます。だから、厳密には、物流は物的流通の略語ではなく、別の概念だということになります。また、マテリアルズ・フロー、という言葉もありました。こちらも直訳で、物的流通、と訳せそうです。ちなみに、マテリアル・フロー、という言葉もあり、こちらは科学や工学で広く使われる概念ですので、紛らわしいです。ところが、当りまえですが一緒にすればそれですむ話ではありません。目的は、確実性と効率性の向上なのです。

~ビジネス・ロジスティクスの誕生~
確実性と効率性を言い換えると、「ジャスト・イン・タイム補給方式」です。ここまできて、ミリタリー・ロジスティクスを手本にする素地ができます。

「物流五大機能」という言葉があって、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、といった物流オペレーションのことです。最近では、情報、が加わり、六大機能、ともいいます。情報は五大機能に横串を刺すように統括します。個々のオペレーションがしっかりしていて、横串が刺さっていないと極めて不十分なものになってしまうのです。そもそも、確実性と効率性は何によって担保されるかというと、情報なのです。

ところで、軍事とは違い産業の中では、平準化しやすい環境にあります。なので安定的なサプライチェーンを構築しやすく、ある程度の自動化もしやすいといえます。先述のかんばんシステムなどはその最たるものといえるでしょう。一方で、IT技術の発展に促されているところも大です。ただここら辺は技術的適用がこなれていないところもあり、システム・ベンダーと物流現場のすり合わせが必要だと思っています。

もう一つ、平準化できない状況では、意外と混乱することが多いです。ここはミリタリーから未学習の部分だと思います。世の中の変わり身が早くなる一方なので、ここでソリューションを提示できれば物流の世界も一皮むけるかもしれません。

例えば、コロナ禍のさなかのワクチン供給はどうだったのでしょうか。緊急を要し、海外からの輸入に依存し、極低温保管が必要で、消費期限があり、日本全国に、しかも需要動向がつかめない状況でした。大混乱が生じてもおかしくありません。しかし実際は驚くほどスムーズに進行したと思います。表には出ませんでしたが、政府や厚労省をはじめとする医療関係者の活躍のたまものだったのではないかと想像します。一連の経過を物流として総括するべきだろうと考えます。

さて、最後に、蛇足ですが、僭越ながら、物流屋が軍事上の出来事を解析してみようと思ったのです。
(最終回:その3は、5月14日(水)号掲載予定)


【出典元】
・精選版 日本国語大辞典 (兵站…孫引き)
・江畑謙介:軍事とロジスティクス
・コア東京Web:都市の歴史と都市構造 第2回
・マーチン・ファン・クレフェルト:補給戦
・wikipedia:ベトナム戦争
・世界史の窓:ベトナム戦争
・中野明:Excelで学ぶランチェスター戦略
・三野正洋:ベトナム戦争
・内藤博文:「半島」の地政学
・名言格言.NET:ホー・チ・ミンの名言格言集

著者プロフィール

大原欽也

主任研究員

職歴
メーカー:研究開発、生産管理、生産改善、原材料調達
物流:工場出荷管理、物流センター管理、SCM開発、コンサルティング


キャリアのスタートはモノづくりでした。調達から製造、出荷まで、様々な角度から関わってきましたが、自身では改善屋だと位置づけています。その後、物流の仕事に移り、出荷、輸配送、倉庫管理、サプライチェーン等の管理や改善を行ってきました。統計的管理や生産管理、会計管理等の手法を物流に適用して、オペレーション改善、マテハン制作、システム開発、SCM開発等で、改善屋としての仕事をしてこれたと思っています。

得意分野

  • 生産管理
  • 工場出荷管理
  • 物流センター管理
  • SCM開発
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