物流よろず相談所

人手不足への対応策は1

2025年1月29日

『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志


政府が発表した物流革新パッケージ近年、物流業界では人手不足が大きな問題となっています。物流の課題は人々の生活や経済活動に直結するため、物流に関わる事業者だけでなく、荷主や顧客も物流の効率化に取り組むことが求められているのです。まだまだ2024年問題は克服できたわけではありません。物流業における人材不足はより深刻さをましているからです。人手不足を解消するためにも、実際の人手不足がいつ頃から、どのような原因で始まったのかを把握し、今後どうしていくべきなのかを考えてみたいと思います。

物流・運送業界の人手不足を考える際、しばしば取り沙汰されるのが2024年問題です。2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間に上限規制が適用されることと、改正改善基準告示が適用されることによる労働時間短縮を原因とした諸問題です。トラックドライバーの長時間労働是正が期待できる一方で、ドライバー不足の深刻化が懸念されていました。政府の発表では、2024年問題について対策を講じなかった場合、2024年に14%、2030年には34%の輸送力が不足するとの見通しを出しています。実際の物流・運送業界における人手不足の問題は、2024年に突然始まったわけではなく、経済産業省・国土交通省・農林水産省による「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、トラックドライバーが不足していると感じている企業の割合は、約10年前の2014年時点で53%と、半数を超えていました。10年前から続いている問題が、2024年の法改正によって、今後さらに深刻になっていくと考えられているのです。物流業界においては、ドライバーだけでなく、内スタッフの人手不足も深刻化。コロナ禍を経て、宅配便の取り扱い個数も増加傾向にあります。しかし、倉庫内スタッフの採用現場では人材が集まりづらく、特にフォークリフトなどの特殊技能を必要とする人材確保が難しいのが現状です。

物流業界における人手不足は、さまざまな要因によって起こっています。具体的にどのような問題があるのか、ひとつずつ考えてみましょう。まず、若年労働者不足による働き手の高齢化です。トラックドライバーの年齢構成は、全産業の年齢構成に比べて高齢化が進んでおり、2015年とやや古いデータですが、全産業では40代~50代前半の従業員が34.7%であるのに対し、トラックドライバーでは45.2%という結果にもなっています。40歳以下の労働者は2023年時点で27.9%まで減少しています。労働時間もほかの産業よりも長い傾向があり、トラックドライバーは仕事を選びやすい若年層にとって、魅力的な仕事になりにくいといえるかもしれません。物流の人手不足は、ドライバーだけの問題ではありません。倉庫内作業を行うスタッフも人手不足が続いています。人口の多いベッドタウンなどから通勤しやすいエリアには、多くの倉庫が建設されています。通常なら、人口の多いエリアの倉庫は、人口の少ないエリアの倉庫よりもスタッフを確保しやすいはずです。しかし、人口の多い地域であっても、人材の取り合いが発生しています。

さらに、スタッフ募集単価は全体的に上昇傾向にあるため、従来どおりの水準では十分な人材の確保ができません。特に、倉庫内作業の経験者や、免許が必要なフォークリフト作業者、倉庫内作業に従事できる体力を有した人材の採用は困難なのが現状です。 

トラックドライバーは、労働時間が長い一方で、給与水準が全産業平均よりも低い状況にあります。全産業平均の489万円と比較したドライバーの年間所得額は、大型ドライバーで約5%、小・中型トラックで約12%も低くなっています。

 労働時間が長く、平均所得も低い状況では、求職者がドライバーを選択するメリットが少なく、人手不足の解消も困難です。こうした問題の一因となっているのが、物流業界における下請け構造と、ドライバーに発生しがちな荷待ち時間です。働き方改革や2024年問題などと呼応して対策がとられつつあるものの、さらなる待遇の改善や業務効率化が求められます。また荷役など

物流の現場は力仕事も多く、体力面の負担が大きくなっています。荷物の積み下ろしや倉庫内を歩き回ってのピッキング、荷物の運搬などは、ある程度の体力を必要とする業務です。体力に自信がない人や、力のあまりない人にとっては厳しい仕事であることから、その分働き手が限定されてしまうといえるでしょう。

特にドライバー業界は、全職種の平均に比べて女性の割合が少ないという統計結果もあることから、女性や高齢者が働きやすい職場づくりの必要性を公益社団法人全日本トラック協会などが提唱しています。

物流業界の人手不足を解消するためには、積極的な取り組みを行っていく必要があります。続いては、配送、倉庫それぞれの面で考えられる解決策を紹介します。(以下次号に続く)

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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