渡る世間は壁ばかり?「所得の壁」について
2025年1月15日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.30
野崎 律博
◆はじめに
新年あけましておめでとうございます。皆様お正月はどのようにして過ごされましたでしょうか?物流業は2024年問題も道半ばであり、今年も物流総合効率化法や貨物自動車運送事業法の改正施行などもあいまって、いろいろと大変そうです。何はともあれ、皆様にとって良い年となりますことを祈念いたします。
さて、昨年より国会で議論されているのは、「年収の壁」です。103万円の壁だの106万円だの130万円だのと、壁ばかりあるようですが、これらはいったいどういう壁なのでしょうか?日々目まぐるしく報道される中、情報を追いかけられない方もいらっしゃるかと存じます。今月はいわゆる「所得の壁」について整理し、理解を深めていただければと思います。
◆「年収の壁」の種類について
年収の壁には大きく分けて二種類のものに分かれます(正確にいえば、その他の壁もありますが、今国会で焦点となっているものです)。一つは税制上の壁と、もう一つは社会保険上の壁です。税制上の壁というのは、所得が103万円を超えると、所得税が発生します。また扶養に入っている配偶者側である場合、配偶者控除が適用されなくなります(代わりに配偶者特別控除が適用になる場合があります)。これが「103万円の壁」です。
もう一つの「社会保険の壁」ですが、一定金額の年収を超えると、労働時間などその他要件を満たした場合、勤務先の社会保険に単独で加入(社会保険の資格取得)しなければなりません。(図表①)
夫の被扶養者だった場合、国民健康保険は第三号被保険者となり保険料は発生しません。もし勤務先の被保険者になった場合は健康保険に加入するとともに、国民年金の第三号被保険者から厚生年金被保険者へ種別変更となります。よって社会保険料が発生することになります。社会保険料の額の例として、仮に所得が20万円の場合、健康保険料(介護保険料含む/折半)で約1万2千円、厚生年金保険料(折半)が約1万9千円となり、所得の約30%(労使折半なので本人負担分は15%)が社会保険料として控除されるようになります
言い方は悪いですが、タダでも社会保険料の恩恵を受けられていたのと、社会保険加入により所得の約30%(労使折半)が控除されるのとでは、大きな違いですね。ただし厚生年金に加入することで将来の年金額の増額が見込まれるので、必ずしも「取られるばかり」ではないのですが、短期的に考えますと損した気になると思われます。
「社会保険の壁」には、二種類の壁があります。一つは130万円の壁ともう一つは106万円の壁です。いずれも先にお話しした「一定の年収超え」の判断要素となる所得です。
130万円というのは、被用者保険(会社で雇用される人が入る社会保険)の被扶養者認定の判断要素になる所得要件です。
106万円というのは、従業員51人以上の企業でかつ週の所定労働時間が20時間以上勤務している人が要件に該当した場合の、社会保険被保険者となる判断要件です。
このあたりの話は、2016年以降から大企業を中心に段階的に施行されている社会保険加入要件の緩和の話も混ざってくるので、若干ややこしい話になります。長くなるためその他加入要件(週の所定労働時間等)の話は省略いたしますが、社会保険の壁には二種類あるということだけを押さえていただければと思います。
◆今年はどうなる?年収の壁
いずれにせよ、今後の国会でこれら所得の壁を改めるのか否か?議論されることになります。なお103万円の壁については、昨年12月20日の与党税制改正大綱により、123万円に引き上げられることが決まりましたが、野党との攻防は継続しております。
また社会保険の壁(106万円の方です)は、厚生労働省は審議会部会の中で、将来撤廃する案が承認されております。「撤廃」と聞くと一見壁が無くなるから「良いこと」と思われそうですが、要件緩和なので、所得の如何にかかわらず(週の所定労働時間が20時間以上あれば)社会保険に強制加入することになります。こちらも本年の国会で改正法案が審議されることになると思われます。
・・・という具合に、年明けの国会もいろいろ大変なことになりそうです。国会の重要な役割の一つは予算の審議なので、こういった議論が深まってゆくことは良いことかもしれません。