物流業におけるBCP対策(その②)
2024年10月2日
『物流なんでも相談所』
岩﨑仁志
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物流業におけるBCP(その①)はこちら
物流業に限らず国内企業のBCP対策はまだ十分とは言えません。それでも数少ない経験の中から、想像し得る最大限の予防を講じ、あきらめない努力を積み重ねていかなければ、自然の猛威を前に、人はいつまでも無力でいるしかないでしょう。BCPは自然災害や人的災害などに備えて、平時に策定する計画、リスクマネージメントの一種です。有事の際は社内・外の行動指標になるので、全社員に周知しておく必要があります。
BCP(Business Continuity Plan)とはご存じの通り事業継続計画。自然災害の他、テロやパンデミック、システム障害などの緊急時、事業を継続し損害を最小限に抑えるためのものです。混同されやすいものとして「BCM」や「防災対策」といったものもありますので、ここで一度再確認しておきましょう。
BCM(Business Continuity Management)は事業継続マネジメントのことで緊急時の対処行動や復旧マニュアルなどの事後対策、組織内での意識啓発や訓練を含む、一連のマネジメント活動を指します。防災対策は主に自然災害から命や資産、住居などを守るという目的で策定されており、避難訓練や建物の耐震強化や防災グッズの備えなどがここに含まれます。対策時に意識する目的を見ると、緊急時における事業の復旧・存続を目的とするBCPとは大きく違うことがわかります。もちろんいずれも災害時に有効な対策ですので、平時からしっかり備えておく必要がある、という点では共通するものがあるでしょう。またBCPの中でもとりわけ物流体制の事業継続に焦点をあてたものを物流BCP・LCP(Logistics Business Continuity Plan)と呼んでおり、災害時におけるサプライチェーンの混乱を極小化するための戦略を、物流ネットワークや拠点の視点から構築しておくものになっています。
東日本大震災以降一気に高まったBCPへの関心は現在どうなっているでしょう。2024年に入り、国交省が行った物流業界におけるBCPの策定状況アンケートによると、物流業者(600社中)では、21.5%、荷主(200社中)では57.3%が策定を行っていると回答しました(有効回答率38.5%)。またBCPを策定した理由は両者共にリスクマネジメントの一環、としたところが最も多く、続いて災害対策法や消防法など法規制上の理由や取引先からの要請、が上位にあがっています。緊急事態が発生してから何かを始めようとしても、おそらくパニックになった頭と周囲の状況の中では正しい行動は起こせないでしょう。物流BCPのイメージは「想定外」を基本とするところに策定の有効性があります。東日本大震災や新型コロナウィルスなど未曾有の大災害の中にあっても、物流業は自社の事業継続のみならず、社会的責任、という立場からも、非常に重要な役割を果たしてきました。このように国民の生活や安全、また国の経済活動復旧にもつながる物流BCP対策において他社よりも抜きん出ていれば、それだけでも企業価値は高まり、社会や顧客からの信頼も得られることになるでしょう。
災害大国日本において、ここ数か月の間にも8月、宮崎県沖の日向灘を震源とするマグニチュウード7.1の地震や9月21日以降の能登半島豪雨など、危険な災害が相次いで発生しています。これら災害の規模が大きくなればなる程、発生直後はBCP担当者の指示の迷いが命取りになることもあります。的確な指示をできる限り早く冷静に出せるようにするためにも、平時からの準備を怠らないようにしておくことが大切です。企業の中でまとまりやすい部署ごとにBCP担当者を選定し、そこに情報が素早く集約されるような仕組み作りが、是非とも必要です。災害発生時の初動として忘れてはならない従業員の安否確認のためにも、緊急時の連絡網の作成は欠かせません。自社内の被災状況を正しく知るところから、何ができるか、を決め物流BCPを実行に移していくのです。自然災害は年を追うごとに甚大化、2020年世界中を大混乱に導いた新型コロナウィルスのようなパンデミックもまた新たな変異を繰り返したウィルスにより、発生してくるかも知れません。物流BCPは「いつ来るかわからない」から「いつ来てもおかしくない」事態に備えるものへと、変化してきています。物流を絶やさないために行なう手段の一つとして、2024年問題の解決と共に取り組みたい物流BCPの策定。機会を作り、ネットワーク企業や関連企業、また荷主とも策定を話し合っておきたいものです。