物流業におけるBCP対策(その①)
2024年9月25日
『物流よろず相談所』
岩﨑仁志
連日国内の至る所で不安定な天候が続く中、中部、北陸で再び大規模な災害が発生してしまいました。いつ、何処で、どの様な形で遭遇するかほとんど検討がつかないのが自然災害の恐ろしさ―、このことを再び思い知らされたような気がしてなりません。日本では、豪雨、台風、豪雪、地震などの自然災害が毎年のように発生しますが、これらの災害はサプライチェーンを分断し、人々の暮らしや企業活動に非常に大きな影響を与えています。実際に、過去に発生した災害では、長期間にわたり事業を休止せざるを得ない状況に追い込まれたり、場合によっては廃業に追い込まれてしまう企業もあるなど、企業にとって災害へのリスク対策は急務となっています。このような状況の中、日本では東日本大震災を契機にBCPの策定を行う企業が増加していると言われています。物流業界に関しては、各業界団体が、以下のようなBCPの策定ガイドラインを公表していますので、これを参考にBCPを策定した物流企業は多い事でしょう。物流業のBCP対策とは、災害やシステム障害・感染症といった予測不可能な事態が起こった時に、物流を中断せずに稼働できる体制を構築することです。
物流業におけるBCP対策はまだ十分に構築されているわけではないようです。それでも数少ない経験の中から、想像し得る最大限の予防を講じておかなければ、自然の猛威を前に蟻ほどの力もない人間などひとたまりもない、ということではないでしょうか。「BCP」(事業継続計画)という言葉が東日本震災後、耳にする機会も増えましたが、11年を経過した今、少しずつその影響も薄れ始めているのかもしれません。台風など自然災害が頻発する今日もう一度物流業におけるBCPの必要性を考え直してみたいと思います。東日本大震災では、物流企業に限らず多くの中小企業が貴重な人材や設備を失ったことで廃業に追い込まれたケースも少なくありませんでした。被災しなかった企業でもサービスが供給できず顧客が離れてしまい、事業縮小や従業員の解雇に至るケースが多く見られました。BCPとは、こういった緊急事態への備えを指すものです。
日本物流団体連合会が実施した「BCP策定状況アンケート」の結果によると、同連合会では「物流業のBCP作成ガイドライン」を作成しており、アンケートはそれを踏まえてのものでした。同アンケートによると、全体の44%がBCP策定済みで、38%が策定中でした。8割の事業者がBCP策定に積極的に取り組んでいることになります。しかし、回答者の企業規模を見ると100人以上がほとんどで、車両数10台以下の運送事業者がBCP策定に取り組んでいるとは考えにくい部分もあります。東北大学とニュートンコンサルティングがこのほど発表した「中小企業BCP調査報告」によると、BCPを導入した中小企業の70%が「社長の指示」によるものであったとのことでした。「取引先の要請」は12%ほどにとどまっており、「BCPの定着には社長の指示のほかに力量のある責任者と社内の盛り上がりが不可欠」とも説明しています。
また、前出の物流連のアンケートでは、「BCPを策定する上で、どこまで想定するか」という問いも多くありました。地震などの災害やインフルエンザまでがほとんどで、交通事故や荷主の取引停止などを想定する事業者はほとんどなかったことにも驚かされます。BCPは事業継続をする中であらゆるリスクへの対応を意味するからです。重大事故でも事業継続はできなくなるでしょうし、1社荷主への依存度が高いとその荷主の海外シフトや合併などによって売上が全くなくなるケースも想定されます。事実、中部地方の運送事業者の証言によると「売り上げの3分の1を占めていた荷主から、いきなり今月いっぱいで…と言われた」ケースもありました。社長は「正直、もうダメかもしれないとも考えた。ドライバーの頑張りで何とか持ちこたえたが、それ以来、売り上げに占める割合を抑えるようにしている」とコメントしています。別の運送事業者も「ウチの場合はこちらから荷主を切った。不当な値下げ要求を繰り返し、原価割れした仕事を続けることは経営的に無理となった。荷主と何度も交渉した後、その仕事を断ることに決めた。ドライバーからは“気持ちはわかるが、本当に大丈夫ですか”と言われたが、全社員を集めて説明し、売り上げ維持に協力を求めた」といいます。
前出の2社とも、何とか難を逃れたものの、危機管理をしていたとは言いがたい状況にあったことも事実です。今後いつ起こるかわかない自然災害、荷主の再編などに備えることが重要だ。運送事業者にとって「BCP」策定は避けて通れない道となっていると言えるでしょう。