続・徒然日記

思い出の長時間フライト

2024年4月17日

『続・徒然日記』
葉山 明彦


私は元来、旅行好きなので出張は特に苦になることはなかった。新たな地でも初対面の人でも、それが外国人でも特に違和感はなく、むしろ知らない話を聞いて記事を書くことが本能的に好きだったのかもしれない。ただ、苦にならないと言っても航空機で長時間にわたる移動は好きといえるものではなかった。特に遠方の外国に出張した時は直行便ならまだしも、トランジットなどで空港待機を重ねてやっと目的地に着くといったケースでは、よく頑張ったものだと思える旅がいくつかある。

過去に体験した出張で、特に長い時間を移動に要したのは南アフリカとブラジルに行った時だ。南アフリカは1997年10月にケープタウンとヨハネスブルクに行ったのだが、自分が残した記録によると羽田発の国内線で関西空港に行き、ここで2時間待って当時関空に乗り入れていた南アフリカ航空のジャンボ機に搭乗。バンコクを経由しインド洋上を飛んでヨハネスブルクに到着、さらに一番初めの訪問地がケープタウンだったため4時間半後の南ア国内線に乗ってケープタウンに着いた。関空からヨハネスブルクまでの単一機の飛行時間は18時間55分だが、途中の関空、ヨハネスブルクの乗り継ぎも含めると羽田を発ってケープタウンに着くまで28時間35分もかかっている。南ア航空機で機内1泊し、時差の関係で翌日午後ケープタウンについたが、その日はさすがに疲れてホテルで寝込んだ記憶がある。

一方、ブラジルに行ったのは2000年7月で、成田発のヴァリグ・ブラジル航空MD11型機に乗り、ロサンゼルス、サンパウロを経由してリオ・デ・ジャネイロまで25時間36分だった。サンパウロからリオまではブラジル国内線扱いとなり便名を変更したが、機材は乗り換えることなく同じだったため、1フライトとしては私にとってこれが最長の搭乗記録である。ちなみに帰路はサンパウロから23時過ぎのフライトに乗ってロサンゼルスを経由しそのまま成田に戻ったので機中で2泊した。後にも先にも機中2連泊というのはこの時だけである。本来ならロサンゼルスで宿をとり1泊するのが普通らしいのだが、遠方の出張に時間を費やしてそんな贅沢はできないという頭があったのだろう。往復この時間を機中で過ごした身体は、中年の働き盛りとはいえ帰国後しばらく疲れが抜けなかった。

南アにせよ、ブラジルにせよ南半球で日本から見れば地球の裏側にあたるのでこれくらいの時間がかかるのも仕方ないが、同じ北半球の欧州や北米でもそれなりのフライト時間がかかる。いまは北米、欧州ともノンストップ便で主要都市に行けるので、昔に比べるとかなり楽になったが、それでも東京発でニューヨークへ12時間、ロサンゼルスへ10時間くらいかかる。欧州へは少し前まで主要都市へ11~12時間、最も近いヘルシンキだと9時間程度だったが、ロシアのウクライナ侵攻による西側諸国との対立で多くの航空会社がシベリヤ上空を飛べなくなり、大回りでもう少し時間がかかっている。

欧州線で言うと私の若いころにアラスカのアンカレジ経由という路線があった。ソ連が存在していた東西冷戦時代に西側航空会社はシベリア上空を飛べず、ソ連圏を回避する形で給油地に選ばれたのがアンカレジだった。ポーラー(北極)ルートと言われ、成田からは7時間前後でアンカレジに着き2時間ほど機外に出て休める。ロンドンなど主要都市にはトータルで16時間ほどかかった。ソ連は1980年代になると外貨獲得を目的に西側航空会社のモスクワ空港トランジット利用を許可、このモスクワ・ルートはアンカレジ経由より2時間ほど早かったが、80年代後半になるとジャンボ機の航続距離が伸びてシベリア上空をノンストップで飛べるようになり、今日のアジア/欧州ルートの原型ができた。

その結果、アンカレジ需要は激減し1990年代初頭には旅客機の経由便はほぼなくなった。ただ、なくなってみるとアンカレジには妙な郷愁がある。ノンストップ化で欧州までのフライト時間が格段に短縮された利点は論を待たないが、数時間乗ってアンカレジで雄大な山々を前に新鮮な空気を吸って一息入れるのは長旅への心の準備によいものであった。またこのトランジットゾーンには決しておいしいとは言えない1杯1000円の立ち食いうどん屋があったのだが、特に帰路は日本食に飢えていたので、わかっていながらいつも食べてしまったのも淡い思い出だ。本題から外れてしまったが、アンカレジ空港はいまは航空貨物便の一大集積地となり、別の方で大発展を遂げている。

著者プロフィール

葉山明彦

国際物流紙・誌の編集長、上海支局長など歴任

40年近く国際関係を主とする記者・編集者として活動、海外約50カ国・地域を訪問、国内は全47都道府県に宿泊した。

国際物流総合研究所に5年間在籍。趣味は旅行、登山、街歩き、温泉・銭湯、歴史地理、B級グルメ、和洋古典芸能、スポーツ観戦と幅広い。

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