物流よろず相談所

BCPを今一度見直す

2024年2月7日

物流よろず相談所 


約1か月前の今年元旦おだやかな新年を迎えた日本列島に激震がはしりました。能登半島地震の発生です。同地震は今年1月1日午後4時10分に石川県能登半島の北東42kmを震源とする地震でマグニチュード7.6、震源の深さは16mとされています。観測された最大震度は、石川県輪島市と羽咋郡志賀町で観測された震度7でし 。地震による家屋倒壊や土砂災害、津波などにより、大きな被害が発生しました。石川県によりますと、県内で死亡が確認された人の数は1月30日午後2時の時点で、29日と変わらず238人となっています。内閣府によりますと、「災害関連死」は、地震の揺れや津波などによる直接的な被害で亡くなるのではなく、その後の避難生活などで病気が悪化したり体調を崩したりして、命が失われるケースを言う、としています。また、重軽傷者は、県内全体で1179人にものぼっています。石川県によりますと、同日時点で県内では能登地方を中心に4万4937棟の住宅で被害が確認され、8つの市と町のあわせておよそ4万1590戸で断水が続いており、避難所に避難している人は、501か所であわせて1万4512人まで増えています。

国内外いたるところで発生する自然災害、人の手ではどうすることもできないように思えます。しかしながら、どんな時でも物流を止めることはできないのです。物流は人の血脈によく例えられますが、この物流インフラの寸断は国民生活やサプライチェーンの寸断を意味することになるからです。東日本震災以降よく耳にするようになった「BCP」(事業継続計画)という言葉を耳にするようになってから10年以上経過していますが、今日のように社旗情勢が不安定であるとき、経済の行き先がよく見えないときにこそ、今一度物流業におけるBCPの必要性を考え直してみたいと思います。

東日本大等震災では、物流企業に限らず多くの中小企業が貴重な人材や設備を失ったことで廃業に追い込まれたケースも少なくありませんでした。被災しなかった企業でもサービスが供給できず顧客が離れてしまい、事業縮小や従業員の解雇に至るケースが多く見られました。BCPとは、こういった緊急事態への備えを指すものです。日本物流団体連合会では、以前に実施した「BCP策定状況アンケート」の結果をもとに、「物流業のBCP作成ガイドライン」を作成しており、そのアンケートはガイドラインの策定がどれほど進んでいるか、それを踏まえてのものでした。同アンケートによると、全体の44%がBCP策定済みで、38%が策定中でした。8割の事業者がBCP策定に積極的に取り組んでいることになります。しかし、回答者の企業規模を見ると100人以上がほとんどで、車両数10台以下の運送事業者がBCP策定に取り組んでいるとは考えにくい部分もあります。

東北大学とニュートンコンサルティングがこのほど発表した「中小企業BCP調査報告」によると、BCPを導入した中小企業の70%が「社長の指示」によるものでした。「取引先の要請」は12%ほどにとどまっており、「BCPの定着には社長の指示のほかに力量のある責任者と社内の盛り上がりが不可欠」とも説明しています。また、前出の物流連のアンケートでは、「BCPを策定する上で、どこまで想定するか」という問いも多くありました。地震などの災害やコロナウィルス、インフルエンザまでがほとんどで、交通事故や荷主の取引停止などを想定する事業者はほとんどなかったことにも驚かされます。BCPは事業継続をする中であらゆるリスクへの対応を意味するからです。重大事故でも事業継続はできないでしょうし、1社荷主への依存度が高いとその荷主の海外シフトや合併などによって売上が全くなくなるケースも想定されます。

事実、中部地方の運送事業者の証言によると「売り上げの3分の1を占めていた荷主から、いきなり今月いっぱいで…と言われた」ことがある。「正直、もうダメかもしれないとも考えた。ドライバーの頑張りで何とか持ちこたえたが、それ以来、売り上げに占める割合を抑えるようにしている」とコメントしています。別の運送事業者も「ウチの場合はこちらから荷主を切った。不当な値下げ要求を繰り返し、原価割れした仕事を続けることは経営的に無理となった。荷主と何度も交渉した後、その仕事を断ることに決めた。ドライバーからは“気持ちはわかるが、本当に大丈夫ですか”と言われた。全社員を集めて説明し、売り上げ維持に協力を求めた」という。前出の2社とも、何とか難を逃れたものの、危機管理をしていたとは言いがたい状況にあったことも事実でしょう。今年2月に発生した大雪でも物流がストップしてしまい、スーパーやコンビニから商品が消える事態が発生しています。今後いつ起こるかわかない自然災害、荷主の再編などに備えることが重要です。運送事業者にとって「BCP」策定は避けて通れない道となっていると言えるでしょう。

著者プロフィール

岩﨑 仁志

代表主席研究員

職歴
 外資系マーケティング企画・コンサルティングセールス


物流・運輸業界に留まらず、製造業や流通業物流部門などを対象にコンサルティングを行ってきました。国内外の物流改善や次世代経営者を育成する一方で、現場教育にも力を発揮し、マーケティング、3PL分野での教育では第一人者とのお声をいただいています。ドライバー教育、幹部育成の他、物流企業経営強化支援として、人事・労務制度改定に携わった経験から、物流経営全般についてのご相談が可能です。

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