労務管理ヴィッセンシャフト

2024年問題の対応に向けて「従業員のエンゲージメント向上が人材確保に繋がる」

2024年1月17日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.19

 

◆2024年4月がやってくる

今年も国際物流総合研究所及びメルマガ「労務管理ヴィッセンシャフト」をよろしくお願いいたします。また新年早々、能登半島を中心とした大震災がございましたが、関係者の方々、営業所がある会社の皆様方などにおかれましては、心からお見舞い申し上げます。

さて、新年ということもありますが、今年は2024年問題の年でもあります。法施行は4月からですが、目前を控え様々な労務問題を抱える運送会社様も多いのではないでしょうか。運賃を巡る荷主との交渉や長時間労働の最適化、そのための働き方改革など、経営課題に追われているかと存じます。とりわけ時間外労働に年間960時間の上限が課せられる中で、荷主からの運送ニーズに対応してゆくためには、従来のような長時間労働ではなく、多くのドライバーを雇用しワークシェアリングしてゆかなくてはなりません。しかしながら昨今ドライバー職は人材不足に見舞われ、賃金はじめ労働条件を改善しても、なかなか雇用できない状況にあります。

年末の私の講演したセミナー、国際物流総合研究所主催による物流物流塾「評価制度と就業規則」でもお話させていたしましたが、人材不足へ対応する上での大きな課題となるのは、会社に対する従業員さんのエンゲージメント向上にあります。エンゲージメントというのは、会社に所属する従業員が、自らの意思で仕事に取り組み、その組織に対して熱心に関与している状態を指します。人手不足といわれる運送業でも、人が定着し、かつ新たな人材を次々と獲得している会社もあります。しかしながら圧倒的多数の運送会社は人手不足であり、そのような理想的な状態になっておりません。その違いは何なのでしょうか?業界を問わずいわれていることでもありますが、今後の企業の人材戦略に欠かせないのがダイバーシティと人権問題、例えば男女の雇用格差の是正等が挙げられます。ひとことでいえば「ホワイトカラー経営」であること。従業員は使い捨てではなく、会社の将来を支える人材であり、社内コミュニケーションや福利厚生、働きぶりに見合った報酬、ワークライフバランス、キャリア形成プログラムの充実化など、全てエンゲージメント向上のための構成要員が、人材確保や定着に繋がっているといえます。

話を戻しますが。エンゲージメントが高い組織では、従業員が会社を信頼し、自身と事業の成長に向けて意欲的に取り組む傾向にあるといえます。またエンゲージメントは生産性向上に結び付くという研究結果もあり、エンゲージメント向上を重要な経営戦略の一つとして位置付ける企業も昨今増えております。

それでは従業員のエンゲージメント向上を図るためには、会社としてどのような取組が考えられるのでしょうか?人事考課制度と賃金制度は密接不可分な関係にあり、かつ評価される従業員の職務及び職能を適切に評価しているか、会社で働くことの意義や承認欲求等が満たされているかが重要となります。

◆二コマコス倫理学からとらえ返すエンゲージメントについて

そもそも会社と従業員がどういうあり方をしているとき、エンゲージメントが向上するのでしょうか?「一生この会社で働きたい」「会社の発展に貢献したい」と思って働く従業員が多ければ多いほど、生産性も上がり、かつ業績も向上する傾向にあります。「いや、そんなの大企業にしかできない話でしょ?うちみたいな中小零細企業にそんなことに取り組むゆとりなんて、ないよ。理想論だ。」とおっしゃる経営者様もおられます。

しかし実際、こういった取組をされている経営者様は、決して大企業だけではなく、従業員が10人~30人くらいの会社であることもあります。むしろ最近では大企業のほうが、社内のガバナンスも取りにくく、十分な働き方改革ができていないところが多いと感じます。昨年末に問題となった某大手中古車販売会社や大手自動車会社を見ても、そのように思います。

もし私がサラリーマン人生をもう一回やり直せるのなら、エンゲージメント向上に取り組む経営者の会社に就職したいものです。(今の私は個人事業主ですが)驚くべきことですが、企業の規模にかかわりなく、エンゲージメント向上に努めている経営者というのは、僅かながら存在します。そういうところで働く人達というのは、いつも顔が生き生きとし、会社と自分の未来を語っています。

そもそも働くことに意欲を見出す状態というのは、どのようにして生まれるのでしょうか?私が多くの日本の会社を見て(サラリーマン時代に自分が勤めた会社も含めて)思うのは、従業員は非常に優秀でかつ能力も高く、マーケティング能力に長けた人もたくさんいるのに、会社が終わったあとの飲み会では会社や上司の悪口ばかり・・・本当にこれは本当にもったいない話です。

かつてのギリシャ古典期の哲学者でプラトンの後継者であるアリストテレスは、著書「二コマコス倫理学」の中で、徳の概念を明らかにすることで、人間としての成長や可能性について示しています。「徳」というと、何か道徳の概念や倫理感ととらえられがちですが、その人の持つスキルや技術といった広い概念で語られています。徳を磨くことと技術を磨くことは同義であり、そのためには節度ある行為を何回も繰り返すことで可能になると述べております。物流マンとして正しいこととは何でしょうか?またマネージャーとして、あるいは経営者として正しいこととは何でしょうか?それぞれの職務を持った人達が、それぞれの立場で節度をもって正しい行為を毎日繰り返すことで、成果が得られることで、生きがいや満足感が得られます。このことで良い選択肢を選ぶ回路が加速度的に形成され、「節度」という徳が身についてくるわけです。ドライバーに例えれば、大型免許を取得しようやくトラックを運転できるようになった。最初は運転も未熟だったかもしれませんが、顧客に貢献したい、そのためにドライバーに必要とされる様々な技術を磨き、能力開発に向けて行動する・・・できることが増えてゆくことで、達成感や満足感も生まれ、その中に生きがいを見出すこともできます。もちろんそれに見合った報酬や報償もなされなくてはなりませんし、スキルアップのための研修も必要です。まさにこれが経営者やマネージャーの求められる徳に関する行為となります。

逆に会社が目先の利益ばかりを追いかけ、ハラスメントや人権侵害、環境破壊を行っていたとしたらどうでしょうか?(昨年そんな企業のニュースが多数ありましたね)結果として従業員は逃げ出し、地域社会からも非難され、会社も業績を落とすことになります。

年始ですので、フィロソフィーに関するお話を書かせていただきましたが、いかがでしょうか?是非一度自らを振り返っていただき、会社または自分にとって徳を磨き上げる行為とは何か、2024年4月を前に振り返っていただければと存じます。(私自身に対してもいえることですが)。また難しい書物ですが、アリストテレス著「二コマコス倫理学」にも触れていただきたいと思います。いきなり最初から原典を読むと大変なので(難解な書籍ですので)、まずは解説本を読まれることをお勧めします。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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