労務管理ヴィッセンシャフト

生成AIの業務活用を前提とした「社内利用規程」について

2023年8月9日

労務管理ヴィッセンシャフト vol.14


1)生成AIは21世紀の産業革命

ChatGPTのことが最近話題になっております。ChatGPTはAIの一分野であり、与えられたデータやパターンに基づいて、自動的に新しいテキスト、画像、音声、動画、デザインを作り出すことができるAIシステムです。この「与えられたデータ」のことを、専門用語ではプロンプトというそうです。プロンプトに基づき様々な事案について、適切な回答を出力してくれるということで、「生成AI」という総称でも呼ばれております。

ChatGPTは、本来人間が行っていた思考作業→アウトプット作業も、瞬時に自動で行ってくれるということで、将来の活用について様々な期待が寄せられております。ことにビジネスの場においては、文書を生成してくれるためのツールとして活用もされ始めているとのことです。

このような中、政府は生成AIの利用にあたっての個人情報の取り扱いなどに関し、令和5年6月2日付「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。(生成AIサービスの利用に関する注意喚起等

その中で、個人情報取扱事業者における注意点として①プロンプトを入力する場合、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること②本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法違反の可能性があるため、このような場合は当該個人データを機械学習に利用しないこと(引用は簡略化した表現に変えてあります)となっております。

まるでドラえもんの秘密道具みたいな素晴らしいシステムの生成AIですが、現実社会で実用化という話になると、著作権やら個人情報保護の観点などで様々な配慮が必要なようです。それでは仕事で生成AIを活用するとき、どのようなことをルール化しておけばよいのでしょうか?

2)生成AI活用に向けた社内規定

業務の場における生成AI活用で考慮しなくてはいけない点は、細かいことまで想定すると多数あると思いますが、大きく分けて2点に注意する必要があります。一つは個人情報及び会社の機密情報に関する取扱いです。入力されるプロンプトの中には、個人情報及び会社の機密情報が含まれる場合、それらが学習用データに収集されてしまいます。これら対応として考えられるのは、①プロンプトを(生成AIが)学習に利用しない設定にする②個人情報を入力しない、いずれかの方法になります。一番無難なのは、①の方法です。生成AI利用規程を制定するのであれば、その旨を明記する必要があります。例えば、「プロンプトが生成AIの学習に利用されない設定をした上で業務に使用すること」等と定めます。また、個人情報流出防止の観点から「次に定める事項をプロンプトとして入力してはならない(1)個人情報(2)企業の機密情報(3)第三者との間で交わしている機密情報)等の定めも必要です。

二つ目としては、生成AIによって出力されたコンテンツが、著作権保護の対象とならない点に留意することです。これはどういうことかと申しますと、現在の著作権法上の著作物は「思想または感情を創作的に表現したもの」となっており、生成AIの出力した生成物については、著作物ではないとされております。一方、これらが利用者に著作意図があり、AI生成物を得るための創作的寄与があれば、利用者が「思想感情を創作的に表現するための道具としてAI生成物を生み出したもの」と考え、当該AI生成物には著作権性が認められ、その著作者は利用者となる・・・という解釈もあります。新たな情報財検討委員会報告書(「新たな情報財検討委員会報告書」より)

ただしこれは、関与の在り方によっては著作物になる、ならないの判断が分かれるところであり、明確なガイドラインは確率しておりません。従いまして、現時点において生成AIの生成物は、著作権の保護を受けないリスクがあるという前提で利用するほうがよいと考えます。ちょっとした連絡用メール文を生成AIに作らせる程度は問題ないと思いますが、例えば出版物や公開する文書、商品・サービスのドキュメントなどに使用する際にはそのまま利用することは避けた方がよいです。生成AIの生成物に関し、そのまま利用することを制限する規程や、生成AIの産物であることを明示した上で利用する等、活用にあたっての留意点を定めることが必要と考えます。

その他、定めなくてはいけない点はいくつかあるかと思いますが、以上がポイントとして考えられるところです。

著者プロフィール

野崎律博

主任研究員

公的資格など
特定社会保険労務士
運行管理者試験(貨物)


物流事業に強い社会保険労務士です。労務管理、就業規則、賃金規定等各種規定の制定、助成金活用、職場のハラスメント対策、その他労務コンサルタントが専門です。労務のお悩み相談窓口としてご活用下さい。健保組合20年経験を生かした社会保険の活用アドバイスや健保組合加入手続きも行っております。社会保険料等にお悩みの場合もご相談下さい。

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