新型コロナの5類引き下げは、会社の労務管理にどのような影響をもたらすか
2023年5月17日
労務管理ヴィッセンシャフト vol.11
◆5類に引き下げられた新型コロナ
GW明けの5月8日より、新型コロナウィルス感染症が5類に引き下げられました。我々の日常生活に多くの制約をもたらしてきたコロナ禍もひと段落し、日常が戻ってきたといえます。5類引き下げにより行動制限の解除やマスク着用の不要など、様々な生活上における変化が生じましたが、企業ではどのような影響を受けるのでしょうか。
(本メルマガでは2023年5月8日時点での対応に基づいております。今後取り扱いが変わる可能性があります)
従来は新型コロナに感染または濃厚接触者になった場合、行政命令として就業不能という扱いでしたが、今後はそういった制限が無くなりました。その影響のひとつとして挙げられるのは、新型コロナ感染疑いがある場合の就業制限をおこなう場合、休業手当の支払義務が生じる場合があることです。治療のため休むのであれば不要ですが、無症状または軽症で感染防止のため会社命令として休ませるのであれば、「事業主都合による休業」として扱われ、労基法に基づき休業手当の支給義務が生じることとなります。
それでは療養のため労務不能となった場合の傷病手当金は、今後どうなるのでしょうか。国民健康保険組合によっては、5類引き下げ後は傷病手当金の支給対象としないというアナウンスがされているところがあります。ただし筆者の見解としては、今後も引き続き支給対象とされる可能性は高いと考えております。と申しますのは、傷病手当金の本来の趣旨は、感染症云々が要件ではなく、「療養のため労務不能」という医師判断の有無が重視されるからです。新型コロナは発熱による身体への大きな負担が生じるため、症状次第で労務不能判断が行われる可能性は高いと思われます。(当たり前の話ですが、5類に引き下げられたからといってウィルスが弱毒化するわけではありません。)
5類への引き下げによる企業対応の変化について、各メディアで情報提供されておりますが、本質的には新型コロナが危険な感染症であり、予断を許さない状況に変わりはありません。その意味でいえば、せっかく普及したテレワークやフレックスタイムなどを大きく変える(やめる)必要はないと考えます。しかしながら、業種によっては感染症対策としての行動制限が事業活動に大きく影響を与えていることもあります。見直すべきところは見直し、働き方改革として据え置くほうがよいところはそのまま継続するのが適切といえます。
そのようなことを踏まえた上で、会社側の対応としては、どのような点を見直すべきなのでしょうか。
◆見直してもよい社内ルールについて
感染症対策として行われた社内ルールについては、個人レベルのものと企業(職場環境)レベルによるものに分かれると思います。個人レベルというのは、マスクの着用や昼食時の黙食、手洗いうがい等のことです。これらは政府の対応に合わせて、個人判断へと切り替えることになります。
では企業レベルの対応はどうなるのでしょうか?例えばアクリル板などによるパーティーションの設置、換気の徹底や消毒薬設置などが挙げられます。結論から申しますと、仮にこういった環境整備をやめたからといって、ただちに会社の安全配慮義務違反とならない場合があります。ただし、働く環境によっては、不特定多数の人と接する労働環境などの場合、従来どおりの感染症対策が求められることもありますので、注意が必要です。
「基本的に不要となるが、場合によっては必要かもしれない・・・」法律を扱う人間の責任のがれのような言い方になってしまって申し訳ございません。ただ私が思うのは、5類相当引き下げ云々というのは、あくまで人間社会におけるルールの話であり、当人(?!)の新型コロナからみれば、関係ない話だからです。行動制限がなくなることで、あたかもコロナが人類にとって「脅威で無くなった」かのような空気感が醸成している気がしますが、コロナの危険性そのものは今までと何も変わりません。今後また様々な形で変異種が生まれ、人類の脅威として我々の前に立ちふさがるかもしれません。
しかし感染症対策も大事ですが、資本主義社会においては経済を回すことも同様に重要です。コロナにより経済が停滞するようなことがあってはなりません。その意味でいえば、今まで経済活動の制限となっていた様々な感染対策ですが、思い切ってやめるのも一つの手です。
最後に新型コロナをきっかけに導入した在宅勤務や時差出勤、フレックスタイムですが、これらは無理に見直す必要はないと考えます。こういった柔軟な働き方はコロナ有無にかかわらず必要といえます。これらを就業規則で規程化した会社も多いと思います。その場合、制度を無くすことは内容によって不利益変更になる可能性もありますので注意が必要です。(変更ができないということではありませんが、可能性として指摘させていただきます)。例えば在宅勤務やフレックスタイム等はコロナの有無にかかわらず有用性があります。廃止することに合理的理由がない場合、労働条件の不利益変更とみなされる可能性もありますので、十分検討する必要があります。