物流業界におけるDX
2021年6月16日
物流なんでも相談所 Vol.31
私達の思惑とは逆にその拡大を止めようとしないコロナウィルスは、産業界における省力化、省人化の流れをさらに加速させてきました。オペレーションにITを取り入れ満足するだけではこの企業間競争から脱落してしまうー、その取り組みを考え直す企業もまた増えて参りました。2019年、経済産業省がDXを推進し始めた際は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とこれを定義しています。この頃は日本における次世代の経営モデルとして受け止められることも多かったDXですが、激変していく社会や周辺状況に対応することが、必然となった今、その力を企業と顧客の全体最適に活用したいとする事業者が多くなってきたのです。“ITではダメなのか?”というご質問もあります。IT化とは企業内業務をIT技術によって効率化・自動化し、自社課題解決に役立てること。DXとは、IT技術によって解決した課題を顧客にとっても利益をもたらすことにつなげることー、つまりDXにおけるIT技術はその手段の一つである、ということです。
ただ日本物流業界におけるDXは、まだまだ遅れており、取り組んでいても、その利便性を使い切れていないところも多いようです。物流のDXを実現していく際に見直さなければならないのが、従来のサプライチェーンです。これまでのプラットフォームにおけるサプライチェーンは製品が顧客にわたるまでの流れをサービスのベースとしてとらえていましたが、今後は周辺の状況変化に対応できる双方向性を物の流れに持たせよう、という考えも重視されるようになってきました。いわゆるサプライチェーン(くさり)からサプライウェブ(あみ)への移行という理念です。物を使って捨てる、ではなくてその返却・リサイクルまで初めから流通の中に組み入れるというもの。すでにご存知の方も多いですね。SDGsの一理にもつながります。流通の過程において様々な無駄を省くことが重視されていますが、サプライウェブの観点から、縦横の方向性を生かし、進化した共同配送や保管の形も生まれてくる気が致します。
実際物流業界におけるDXに少しずつ動きが出始めています。丸紅は5月14日、“デジタルトランスフォーメーション(DX)化を通じた出版流通改革に取り組む新会社”の年内設立に向け、講談社、集英社、小学館の出版大手3社と協議を開始する、と発表しました。出版市場は2020年に1兆6168億円と2年連続で前年実績を超えましたが、「複数の構造的な課題」を抱え、改善が急務となっており、そこで丸紅は、出版3社を含む出版業界と長年にわたって取引し、ほかの業界でサプライチェーン改革を手がけた経緯から、出版3社からの要請を受ける形で新会社設立に向けた取り組みを開始したものです。新会社では、AIを活用した業務効率化事業とRFIDの活用事業を立ち上げ、出版業界の課題解決とともに、書籍・雑誌の配送量最適化による環境負荷の軽減、返品率の改善による資源ロスの削減を進める計画です。具体的には、書籍・雑誌の流通情報の流れを網羅的に把握し、AIを活用した配本・発行によって出版流通全体の最適化を図り、返本に伴う経済的損失の軽減につなげることが狙いです。また、ICタグに埋め込まれた情報を用い、在庫や販売条件の管理、棚卸の効率化や売り場の書籍推奨サービス、万引き防止といった幅広い用途に活用できるシステムを構築・運用することも検討することにしています。
日本郵便も、デジタル化された差出情報と配達先情報を活用し、データ駆動型のオペレーションサービスを目指す郵便・物流事業改革「P-DX」(ポスタルデジタルトランスフォーメーション)に取り組む計画です。2025年までにITや施設・設備向けのオペレーション改革投資と併せて、3000億円を投資。これは親会社の日本郵政が14日に発表した新たな中期経営計画「JPビジョン2025」でも明記されたものです。この改革により、荷物の送り手となる顧客はスマートフォンアプリでラベル情報を登録することで手書きや非対面・非接触による差し出しが可能となります。AIが過去実績を分析して配達先情報と組み合わせ、局内作業のスリム化、デジタル化された差出情報・配達先情報を活用・蓄積し、生産性の向上やオペレーション業務の効率化につなげることができます。具体的には局内作業の省人化・省スペース化によって不動産価値の高い資産を不動産事業に活用したり、配達物の数に応じた要員や車両の割当、配送経路の最適化、テレマティクスを活用した配達、エリアや配達順路の見直しなどに活用します。
企業と顧客がこの先もより良く、スムーズにつながりを保ち続けていくためにも自社におけるDXの在り方を考えてみる価値はありそうですね。