BCP活用と物流の可視化
2019年11月13日
物流よろず相談所
東日本震災後を機に、多くの企業で再重視されたBCP(事業継続計画)。当災害から8年半が経過した今、その取り組み方に少しずつ温度差も出始めているように思えます。日本における自然の災害は減るどころかむしろ増加傾向にあります。災害の種類は異なりますが、ここ数年の間にも実に多くの方々がその犠牲となり命を落とされました。
次なる災害に向け秘かなカウントダウンが始まっていることは間違いありません。誰かが声を上げ、周囲を啓発して各企業のBCP見直しと確認行動を実行すべきであると思われます。東日本大震災では、直接被災を受けた物流事業者はもとより、被災を免れた事業者でも、支援物資輸送やサプライチェーン、産業活動の復旧に向け、通常と異なる業務体制が求められました。
しかし、物流事業者の中には、安否確認や被害状況の把握に時間がかかったり、業務再開に 時間を要したり、また、被災していなくても、支援物資輸送への対応時に関係各所とスムーズな連絡がとれなかったなど、実務への対応に苦慮した現場は少なくありませんでした。熊本の震災でもその教訓が生かされていない状況が各所で見られました。物流事業者は日頃より、我が国の経済活動を支えていますが、それ故に地震や津波、台風や洪水など様々な自然災害のリスクの中、事業経営を行ない続けていかねばならない使命も負っています。事業経営を取り巻くリスクは自然災害以外にも、荷主の倒産・取引停止など経営環境の変化や、貨物・交通事故など多岐にわたるものがあります。災害への不安が増す中、物流業に求められる責任と期待はより高まり、支援物資の輸 送や物流拠点の運営などについて、行政と事業者団体等との協定締結や見直しも進められています。
物流業としては、自社の事業継続はいうまでもなく、社会インフラを担う社会的責任、また 有事の際には支援物資等の供給体制の一翼を担う民間事業者としての社会的貢献も求められています。企業規模を問わず、事業継続のための備えである事業継続計画の策定は当然の義務となりつつあります。企業トップのリーダーシップのもと、BCPが策定されなければならない理由は、そこに企業経営方針に基づく意思決定が必要であるからに他なりません。物流業の場合、①自社の営業をいかに早期に開始し、できるだけ短期間で通常通りに戻すか。事業をいか に存続させるか。 ②緊急物資輸送など社会から求められる物流機能をいかに担うことができるか。③顧客のサプライチェーン(物流システム)をいかに確保し、早期に復旧するか。この3つの視点から早期に事業を行うことができる体制を、予め準備しておくことが重要と考えられます。BCPとはまさに、こういった緊急事態への備えを指すものでしょう。
日本物流団体連合会が平成26年3月にアンケートを実施しましたが、この中で、全体の44%がBCP策定済みで、38%が策定中でした。8割の事業者がBCP策定に積極的に取り組んでいることになりますが、回答者の企業規模を見ると100人以上がほとんど。一方で東北大学とニュートンコンサルティングがこのほど発表した「中小企業BCP調査報告」によると、BCPを導入した中小企業の70%が「社長の指示」によるもの(「取引先の要請」は12%ほど)。「BCPの定着には社長の指示のほかに力量のある責任者と社内の盛り上がりが不可欠」とも説明しています。物流連のアンケートでは、「BCPを策定する上で、どこまで想定するか」という問いもありましたが、地震などの災害やインフルエンザまで、とするところがほとんどで、交通事故や荷主の取引停止などを想定する事業者はほとんどなかったことに、危機管理の理解が薄い現実が浮き彫りになりました。
BCPは事業継続をする中であらゆるリスクへの対応を想定していなかれば無意味なものとなってしまいます。災害のみならず、1社荷主への依存度が高過ぎたり、重大事故を起こしたりすることは企業存続の妨げにならない、と言い切れるはずもないでしょう。
中部地方の運送事業者証言によると「売り上げの3分の1を占めていた荷主から、いきなり今月いっぱいで…と言われ、真剣に会社をたたむことを考えた…、ドライバーの頑張りで何とか持ちこたえているが、以来売り上げに占める各社の割合を考えるようにしている」とのコメント。別の運送事業者は「不当な値下げ要求を繰り返し、原価割れした仕事を続けることを強要され続け、経営的が行き詰まることに。何度も交渉した後、その荷主との契約を断ることに決めたとのこと。2社とも、何とか難を逃れたものの、危機管理をしていたとは言いがたい状況にあったことも事実でしょう。
2015年2月に東北・関東・信越で発生した大雪でも物流がストップしてしまい、スーパーやコンビニから商品が消える事態が発生しました。今年も関東で台風15号による停電や大雨による堤防決壊などによって物流機能が麻痺しました。
物流連ではBCPと併せ生産性の可視化によって更なる物流の発展が不可欠とし、「社会インフラとしての物流機能強化」への取組みを実施するとともに、”大規模 建築物設計時の物流への配慮”問題に関し、国交省の検討会へ参加し議論を深めて行くとしました。 災害に留まらない“重大リスクへの対応”を事業継続計画に反映させ、実効性のあるBCPとして社内外への徹底を計って参りましょう。